知財高裁(令和元年11月28日)“新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法事件”は、「本件臨床試験に際し、治験担当医師は、受領した全ての情報及び本件臨床試験の実施中に医師自身が得た知識に関して、臨床試験の終了後、少なくとも10年間秘密保持義務を負っており、法令等が患者等に対して情報を共有することを要求しているなどの場合でない限り、契約書に規定された以外の目的のために情報を使用してはならないとされていた上、治験担当医師は他の個人又は団体からデータの開示を求められた場合、それを直ちに会社に通知することとされていた」、「本件臨床試験はICH−GCPガイドラインに沿って実施されたものであるところ、・・・・ICH−GCPガイドライン4.8.10は、インフォームドコンセントの同意書面等に『治験の目的』、『治験における処置の内容』、『治験の手順』、『合理的に期待できる利益』について記載すべきと規定している。ICH−GCPガイドラインの上記規定からすると、本件臨床試験においてビタミン補充を受けた患者に対し、投与する抗がん剤がMTAであり、それと併用投与されるのが葉酸及びビタミンB12であるという程度の情報については情報提供があったとは推認できるものの、同意書面等に記載されるべき『治験の目的』、『治験における処置の内容』、『治験の手順』、『合理的に期待できる利益』が具体的にどのようなものを指し、どこまでの情報を開示すべきであるのかについて、ICH−GCPガイドラインには明示的な定めがないし、本件臨床試験が実施されていた諸外国で、当時、どのような法令や実務があったのかについては本件証拠上明らかではない。そうすると、上記のような開示されたと合理的に推認される情報から更に進んでMTA、葉酸及びビタミンB12の具体的な投与量、投与の時期、投与経路といった情報や『MTA投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する』ことまでもがインフォームドコンセントの同意書面等に記載されていたと認めることはできない。また、ICH−GCPガイドライン4.8.7は、治験担当医師は、患者の同意を得るに当たって、患者やその法的に許容される代理人(以下、併せて『患者ら』という。)が、満足するまで患者らからの質問に回答しなければならない旨規定しているものの、『患者らが満足するまで質問に回答しなければならない』という規定は抽象的なものであって、MTA、葉酸及びビタミンB12の具体的な投与量、投与の時期、投与経路といった情報や『MTA投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する』ことといった情報を含む全ての情報が患者らの求めに応じて治験担当医師から患者らに対して提供される体制が構築されていたなどそれらの情報が提供される状況にあったとまで本件証拠上認めることはできず、ましてや、実際にそれらの情報の全てが患者らの求めに応じて治験担当医師から提供されたと認めることはできない。その他、本件臨床試験において、患者らが本件発明の内容を知ったとか、知り得る状態にあったというべき事実は認められない。したがって、本件臨床試験において、本件発明が『公然知られた』とか『公然実施された』と認めることはできない」と述べている。 |