大阪地裁(令和元年)“光照射装置事件本件再訂正発明は、その実施により光照射装置の性能を必ずしも向上するというものではなく、また、販売価格の面でも、実施によるコスト削減に伴い他社製品との価格競争上同程度の地位に立つことを可能にすることはあり得るとしても、価格競争上他社より優位に立ち得る程度のメリットをもたらすものとまではいえないと見られる。これを需要者の側から見ると、本件再訂正発明の実施品であることは、そのこと自体により直ちに需要者の購買意欲を高めるものとはいえないことになる。すなわち、本件再訂正発明は、その性質上、顧客吸引力は必ずしも高くないものと評価すべきである」、「もっとも、被告が約5年間にわたって本件再訂正発明を実施していたことに鑑みると、本件再訂正発明を実施することに経済的な意義がないとは考え難く、少なくとも、被告各製品の販売価格が、ライン状の光を照射する光照射装置の市場において、他社製品に後れを取ることがない程度となることに本件再訂正発明の作用効果が影響していると考えることには合理性がある」、「本件においては、原告各製品と被告各製品とが市場において競合関係に立つ製品であることが前提となるところ、これを踏まえて・・・・被告各製品及び原告各製品以外のものを見ると、いずれも原告各製品及び被告各製品と用途例が共通しており・・・・、長さ寸法及び発光色も対応している。・・・・これらの製品の価格帯もおおむね同程度である。他方、これらの製品の冷却方式は様々であるものの、被告各製品はいずれも自然空冷である一方、原告各製品には自然空冷だけでなくファン空冷のものもあることに照らせば、その違いは競合関係を否定する事情とまではいえない。また、前記のとおり、本件再訂正発明の実施によって光照射装置としての性能が向上するとはいえない。色及びサイズ展開の点も、機能面で大きな差異を生じるのでなければ、需要者にとっては必要とする特定の色及びサイズに対応した製品であれば足り、製品ラインナップとして多色展開していることや、希望サイズに対応するためにLED基板を複数とするか1枚の基板で対応するかといったことは、需要者にとっては必ずしも重要でないと思われる。これらの事情に鑑みると、これらの製品は、原告製品及び被告各製品と市場において競合関係に立つ製品であると認められる。そうすると、原告各製品及び被告各製品の競合品としては、ライン状の光を照射する光照射装置を想定するのが相当であり、多色展開していて、複数のLED基板をライン方向に直列させることで多数のサイズ展開をしているライン状の光を照射する光照射装置に限られないというべきである」、以上の事情を総合的に考慮すると、本件においては、被告各製品の販売がなかった場合に、これに対応する需要が全て原告各製品に向かったであろうと見ることに合理性はなく、むしろ、本件再訂正発明の実施品ではない原告各製品に向かう部分はごく限られると考える。そうすると、本件では、(省略●の限度で特許法102条2項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。これに対し、原告は、本件再訂正発明の顧客吸引力は大きいと主張するとともに、競合品は、多色展開していて、複数のLED基板をライン方向に直列させることで多数のサイズ展開をしているライン光照射装置に限られるなどと主張する。しかし、上記のとおり、この点に関する原告の主張は採用できない」と述べている。

特許法の世界|判例集