大阪地裁(令和元年12月16日)“光照射装置事件”は、「本件特許権は、被告による特許権侵害行為の継続した期間のうち、その始期である平成24年7月から平成26年11月21日までの間、原告と三菱化学との共有に係るものであった。特許権の共有者は、それぞれ、原則として他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができるが(特許法73条2項)、その価値の全てを独占するものではないことに鑑みると、同法102条2項に基づく損害額の推定を受けるに当たり、共有者は、原則としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定されると解するのが相当であり、共有者各自の逸失利益額と相関関係にない持分権の割合を基準とすることは合理的でない。もっとも、特許発明の実施品又は侵害品と競合する特許権者の製品に係る販売利益の減少等による特許権者の逸失利益と、侵害者から得べかりし実施料の喪失による逸失利益とは、類型的にその性質を異にするものである。また、共有者の一部が当該特許発明を実施したり、侵害品と競合する製品の製造等を行ったりしていなかったとしても、共有に係る特許権の侵害による侵害者の利益は、特許権の共有者の一方の持分権の侵害のみならず他方の持分権の侵害にもよるものである以上、実施料相当額の逸失利益を観念することは可能であり、同法102条3項もこのことを前提とするものと理解される。そうである以上、同条2項による損害額の推定に基づき侵害者に対し特許権の共有者の一部が損害賠償請求権を行使するに当たっては、同条2項に基づく損害額の推定は、不実施に係る他の共有者の持分割合による同条3項に基づく特許発明の実施に対し受けるべき金銭相当額の限度で一部覆滅されるとするのが合理的である」と述べている。 |