知財高裁(令和元年12月25日)“椅子式マッサージ機事件”は、「審決は、本件明細書の【図4】は、背凭れ部が座部に対して回動し、背凭れ部に連結された肘掛部が回動するという事項・・・・を概略的に図示したものであり、そのための『適宜の回動手段』『適宜の連結手段』については当業者が過度の試行錯誤なく適宜に行い得る程度のことであると認定する。しかし、・・・・本件においては、構成要件D〜Fを充足するような、[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段、[2]肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており、したがって、これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足りるのではなく、それぞれの手段が協調して構成要件D〜Fに示された機能を実現する必要がある。そうすると、このような機能を実現するための手段の選択には、技術的創意が必要であり、単に適宜の手段を選択すれば足りるというわけにはいかないのであるから、明細書の記載が実施可能要件を満たしているといえるためには、必要な機能を実現するための具体的構成を示すか、少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構成に至ることができるような示唆を与える必要があると解されるところ、本件明細書には、このような具体的構成の記載も示唆もない」、「被告は、本件明細書の記載から当業者が実施し得る本件発明1の具体的な構成として、別紙被告主張図面目録記載のとおり動作するマッサージ機の具体的構成(以下『被告主張構成』という。)を主張する」、「しかし、本件明細書には被告主張構成の記載や示唆はないから、被告主張構成が直ちに実施可能要件適合性を裏付けるものではない上に、当業者が、・・・・本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、被告主張構成を採用し得たというべき技術常識ないし周知技術に関する的確な証拠もない」、「以上によれば、本件明細書には、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるということはできず、この点は、本件発明1を引用する本件発明2についても同様である。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない」、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するものとはいえず、審決の判断には誤りがある」と述べている。 |