東京地裁(令和元年5)“医薬組成物事件構成要件2Bは『前記化学療法が、CVPである』というものであり、・・・・CVPないしCVP療法は、シクロホスファミド、ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であると認められる。そして、証拠・・・・によれば、使用薬剤の組合せが同一であっても、投与量、投与方法、投与時期等が異なる場合には、異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ、・・・・本件原出願日前に発行されていた文献には、CVP療法と使用薬剤の組合せが同一の化学療法として、COPないしCOP療法という名称の化学療法も記載されていたから、CVP療法とCOP療法が、各薬剤の投与量、投与方法、投与時期等によって、異なる化学療法として区別して認識されていたかについて検討する」、「本件原出願日当時、各薬剤の投与量及び投与方法については若干の相違がみられるものの、CVP療法は、シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し、COP療法は、シクロホスファミドを1日目に投与するものであるなどとして、シクロホスファミドの投与時期によって両者は区別されることが多く・・・・、CVP療法は、シクロホスファミドを5日間投与する点でCOP療法と異なることが示されていたほか、CVP療法又はCOP療法のいずれか一方について、各薬剤の投与時期をもって上記のとおり両者を区別することに整合する内容が多く示されていた・・・・。これらのことに加えて、・・・・シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニソンの3剤を併用する化学療法は、昭和4年(1969年)に初めて報告され、その後発行された文献でCOP療法とされていたところ、・・・・CVP療法は、COP療法を基本とし、投与法、投与量等を変更した化学療法として発表されるようになった化学療法であり、COP療法と比べて有効率の向上が顕著であったとして、CVP療法について、シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するなどする投与スケジュールが示されている。そうすると、・・・・他方で、シクロホスファミドを1日目に投与する化学療法をCVP療法として記載する文献・・・・や、シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法として記載する文献・・・・もみられたものの、これらは、多様な化学療法が研究される中で、一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって、本件原出願日当時、CVP療法とCOP療法は、シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するのがCVP療法であるのに対し、1日目にのみ投与するのがCOP療法であるとして、シクロホスファミドの投与時期によって区別されており、そのようにして区別されることは技術常識であったと認めるのが相当である。このような本件原出願日当時の技術常識に照らせば、構成要件2Bの『CVP』は、シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであり、シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものは含まないものと認めるのが相当である」、「原告らは、構成要件2Bの『CVP』は、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であり、本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に、・・・・使用される薬剤の投与量、投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから、それらによる限定はされないものと解すべきであると主張する。しかしながら、前記のとおり、使用薬剤の組合せが同一であっても、投与量、投与方法及び投与時期等が異なる場合には、異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ『CVP』については、本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に具体的な説明がされていない以上、技術常識を踏まえて、その意義、内容を解釈し得ることは当然である。そして、CVP療法について、シクロホスファミドの投与時期によって、使用薬剤の組合せが同一のCOP療法と区別して認識されていたと認められることは前記のとおりであるから『CVP』の解釈においては、このような本件原出願日当時の技術常識を考慮するのが相当である」、「証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告製剤の添付文書に記載されているR−CVPレジメンは、・・・・シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目、プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメン(サイト注:治療計画)であると認められる。そうすると、被告製剤は、添付文書に記載されたR−CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり、1日目から5日目まで投与するものでない点で、構成要件2Bの『CVP』を充足するとはいえない」と述べている。

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