東京地裁(令和元年6月18日)“ダクトのライニング事件”は、「原告らは、本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4年分の年金のリマインダの送付を受け、電子メールに添付した本件注文書によって、本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をしたと主張する。しかし、上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず、また、特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されていなかった。特許番号を記載しなかった理由は、原告らの年金納付担当者の気力がなかったというものであった。かえって、本件特許権の第4年分の年金の納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず、電子メール及び本件注文書には、年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のものであり、その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみがあった。本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手続を管理しており、その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のものが含まれていた。更に、本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば、本件特許事務所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書等が送付されるところ、そのような通知や請求書の送付はなく、原告らがそれに気付くことはなかった。これらによれば、本件注文書に『2013年11月15日付けの最終連絡に基づく』旨が記載されていて、原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても、原告らは、年金納付をする特許権を容易に特定することができ、また、本件特許事務所が管理する原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわらず、本件注文書やその電子メールをもって、本件特許事務所に対し年金納付の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を指示したとは到底いい難い 。そして、原告らは、年金納付の指示をすれば当然あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて、本件において、一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるとは認められない」、「これに対し、原告らは、本件特許事務所(サイト注:英国の事務所)は世界的なランキングに掲載される有力な事務所であり、年金納付が確実に行われるように体制を整備していたのであって、そのような外部組織を適切に選任した以上、原告らには特許法112条の2第1項の『正当な理由』があるなどと主張する。しかし、前記のとおり、本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が明確であったとはいい難く、また、その後、原告らは、当然あるはずの請求書の送付等がないことを看過していたのであって、本件特許事務所を選任したことによって『正当な理由』があるとはいえない」、「以上によれば、本件期間徒過について『正当な理由』(特許法112条の2第1項)があるとはいえない」と述べている。 |