知財高裁(令和元年6月26日)“美容器事件”は、「特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は、同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ、その趣旨は、無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると、侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い、審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には、同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは、特段の事情がない限り、訴訟上の信義則に反するものであり、民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。控訴人は、無効審判手続と特許権侵害訴訟における特許権者が置かれている立場の質的相違等から、特許法167条の趣旨は、侵害訴訟に適用されないと主張するが、上記説示したところに照らし採用できない。また、控訴人は、第三者の無効審判請求により特許権が無効とされるべき場合にまで侵害訴訟において無効の抗弁を主張できないのは不当であるという趣旨の主張もしているが、控訴人自身は、無効審判手続において無効主張をする機会を十分に与えられ、かつ無効不成立審判に対して審決取消訴訟を提起する機会も与えられていたのであるから、審決取消訴訟を提起せずに無効不成立審決を確定させた結果、もはや当該審判手続において主張していた特許の無効事由を主張できないこととなったとしても、その結果を不当ということはできない」と述べている。 |