知財高裁(令和元年6)“美容器事件特許法102条1項ただし書の規定する・・・販売することができないとする事情は、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、@特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性、A市場における競合品の存在、B侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告、C侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情を上記事情として考慮することができるものと解される」、「原告製品は、いわゆるブランド品に位置付けられるものであって、主に、直営店、百貨店、認定美容室、認定エステティックサロン、大手家電量販店、大手オンラインモール(被控訴人が出店するものも含む)等において、いずれも、3万5400円(税込)から3万5640円(税込)で販売されていたものである・・・・。他方、被告製品は、ブランド品ではなく、総合ディスカウントストアや雑貨店への卸売販売を中心として、3980円(税抜)から4800円(税込みか否かは不明である)で販売されていたものである」、「また、原告製品には、ハンドルにソーラーパネルが設けられており、同パネルが微弱電流(マイクロカレント)を発生するとされている上、原告製品の販売に当たって、かかる機能は原告製品の特長として強調されている・・・・。他方、被告製品には、このような機能はない」、「もっとも、大手オンラインモールの被告製品紹介ページを表示すると『この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています』として原告製品の案内も表示されており・・・・、原告製品と被告製品とが、競合商品ないし関連商品として認識されていたこともうかがわれる」、「原告製品は、本件発明1及び2の実施品であって・・・・、被告製品は、本件発明1及び2の技術的範囲に属するものであり、いずれも4個のローラで構成されたマッサージ用の美容器である。4個のローラで構成されたマッサージ用の美容器の需要者を想定すると、両者が市場において競合することは明らかである。このことは、前記・・・・の関連商品に関する記載等からも裏付けられる。したがって、被告製品の販売がなければ、その需要が、原告製品に向かったであろうと考えることができる。しかしながら、前記・・・・にみた各事情に照らすと、被告製品の販売がない場合に、その需要の全てが、原告製品に向かうものではないと認められる。すなわち、上記の原告製品と被告製品との価格の相違、流通形態の相違、機能の相違に照らすと、上記に見た4個のローラで構成されたマッサージ用の美容器の需要者について、更に、被告製品に近い価格帯の美容器のみを欲する需要者、百貨店や大型家電量販店を主に利用する需要者、逆に主としてディスカウントストアを利用する需要者、マイクロカレントを含む付加機能を備えたブランド品である原告製品のみを欲する需要者といった者らの需要に応じた各市場も想定することができ、原告製品と被告製品との市場が完全に重なり合うものではないことが認められる。そして、需要者の購買行動における価格の重要性を考慮すると、原告製品と被告製品との価格差がおよそ7倍から8倍程度と大きいことは、原告製品と被告製品との市場の重なりの程度を検討するにあたっても重視せざるをえない」、「もっとも、・・・・原告製品の美容効果等を高く評価し、仮に低額の被告製品が存在しなかったのであれば、高い代金を支払ってでも原告製品を購入したであろうと考えられる消費者層も存在したであろうことは十分にうかがわれるところであり、上記のような事情を考慮したとしても、両者の市場が完全に分離していたということもできない」、「以上の事情を総合考慮すると、被告製品の譲渡数量のうち5割については、被控訴人においてこれを『販売することができないとする事情』があったというべきである」と述べている。

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