知財高裁(令和元年6月27日)“液晶媒体事件”は、「本件特許の出願日当時、p型の液晶化合物を用いたディスプレイの場合は、しきい値電圧はK1(サイト注:弾性定数)と連動するが、n型の液晶化合物を用いたディスプレイの場合は、・・・・K1とは連動しないことは周知であったと認められる。そして、・・・・本件明細書は、本件発明の課題として、K1を減少させることにより、低いしきい値電圧を実現することに重点が置かれているから、本件明細書は、p型の液晶化合物を用いたディスプレイを前提としたものであり、開示する課題解決手段も、p型の液晶化合物を用いたディスプレイを前提としたものと解される。また、本件明細書の実施例の液晶組成物は、すべてp型の液晶化合物を含んでいるが、n型の液晶化合物を含む実施例は存在しないこと・・・・からも、本件明細書がp型の液晶化合物を用いたディスプレイを前提としたものであることが裏付けられるというべきである」、「本件発明の各特許請求の範囲は、いずれも、『正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって』と記載されているから、いずれも、n型の液晶化合物に基づく液晶媒体を含んでいる。ところが、・・・・本件明細書には、p型の液晶化合物が用いたディスプレイを前提として、しきい値電圧の低減をK1を減少させることにより実現することが記載されているのみである。本件明細書には、n型の液晶化合物が用いられるディスプレイについて、K1を減少させることによってしきい値電圧を低減させることができるとの記載はなく、また、そのような技術常識があったとは認められないし、本件明細書の実施例にも、n型の液晶化合物は一切含まれていない。したがって、n型の液晶化合物については、当業者は、本件明細書から、発明の課題を解決できるものと認識することはできないというべきである。以上のとおり、本件発明は、いずれも、発明の詳細な説明の記載により、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているというべきである。なお、原告は、甲54実験、甲59実験、甲90実験(サイト注:いずれも特許無効審判において提出された追加の実験である)について主張する。しかし、・・・・上記実験結果が、本件特許の出願日当時、当事者の技術常識であったとも認められないから、上記実験結果を参照して、n型液晶化合物を用いたディスプレイにおいて、K1を減少させることによって、しきい値電圧を低減できることをサポート要件の判断に当たって考慮することはできないというべきである」と述べている。 |