知財高裁(令和元年6月7日)“二酸化炭素含有粘性組成物事件”は、「特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、@特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、A市場における競合品の存在、B侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、C侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について、特許法102条1項ただし書の事情と同様、同条2項についても、これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である」、「控訴人らは、炭酸ガスを利用したパック化粧料全てが競合品であることを前提に、他の炭酸パック化粧料の存在が推定覆滅事由となると主張する。しかし、そもそも、競合品といえるためには、市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告各製品は、炭酸パックの2剤型のキットの1剤を含水粘性組成物とし、炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ、得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させる炭酸ガスを利用したパック化粧料である。そして、化粧料における剤型は、簡便さ、扱いやすさのみならず、手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり、各消費者の必要や好みに応じて選択されるものであるから、剤型を捨象して広く炭酸ガスを利用したパック化粧料全てをもって競合品であると解するのは相当ではない。控訴人らが競合品であると主張する製品は、その販売時期や市場占有率等が不明であり、市場において被告各製品と競合関係に立つものと認めるには足りない」、「控訴人らは、被告各製品が利便性に優れているとか、被告各製品の販売は控訴人らの企画力・営業努力によって成し遂げられたものであると主張する。しかし、事業者は、製品の製造、販売に当たり、製品の利便性について工夫し、営業努力を行うのが通常であるから、通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても、推定覆滅事由に当たるとはいえないところ、本件において、控訴人らが通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない」、「控訴人らは、被告各製品が控訴人ネオケミアの有する特許発明の実施品であるなどとして、これらの特許発明の寄与を考慮して損害賠償額が減額されるべきであると主張する。侵害品が他の特許発明の実施品であるとしても、そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく、他の特許発明を実施したことが侵害品の売上げに貢献しているといった事情がなければならないというべきである。控訴人ネオケミアが、二酸化炭素外用剤に関連する特許である、@特許第4130181号・・・・、A特許第4248878号・・・・、B特許第4589432号・・・・、C特許第4756265号・・・・を保有していることは認められるが、被告各製品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属することを裏付ける的確な証拠はないから、そもそも、被告各製品が他の特許発明の実施品であるということができない。よって、これらの特許発明の寄与による推定の覆滅を認めることはできない。なお、被告各製品の中には、上記特許権の存在や、特許取得済みであることを外装箱に表示したり、宣伝広告に表示したりしているものがあったことが認められる・・・・が、特許発明の実施の事実が認められない場合に、その特許に関する表示のみをもって推定覆滅事由として考慮することは相当でないから、この点による推定の覆滅を認めることもできない」、「控訴人らの主張するその余の点は、いずれも、特許法102条2項の推定覆滅事由とはならないものであり、以上によれば、本件において同項の推定の覆滅は認められない」と述べている。 |