知財高裁(令和元年7月18日)“海生生物の付着防止方法事件”は、「甲5の記載事項から、甲1記載の有効塩素発生剤と過酸化水素を組み合わせた海水動物の付着抑制方法(甲1発明)には、塩素剤である有効塩素発生剤の添加により有害なトリハロメタン類が生成するという課題があり、その生成防止のために塩素剤の添加量を0.07mg/l未満に減少させた場合、塩素剤の海生付着生物に対する付着及び成長抑制効果を期待できず、また、過酸化水素剤については、特に過酸化水素剤の分解酵素を多く有しているムラサキイガイ等の二枚貝類に対しては、2mg/l以上使用しないと抑制効果が少ないため、海水使用量の大きな冷却水系統においては、その使用量が膨大な量になり、経済的ではないという課題があることを理解できる」、「甲2には、@甲2記載の水中生物付着防止方法は、塩素の代わりに、塩素の2.6倍の有効塩素量を有し、水溶性の高い二酸化塩素又は二酸化塩素発生剤を用いることにより、薬品使用量の減少を図り、ひいては、毒性のあるTHM(トリハロメタン)の生成を防止しつつ、海洋中などの水中における生物付着を防止すること・・・・、A二酸化塩素は、・・・・有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナトリウムと比較し少量で効果があり、更にトリハロメタンの発生がなく、環境汚染がない、反応生成物は海水中に存在するイオンのみで構成され、残留毒性、蓄積毒性がないという効果を奏すること・・・・の開示があることが認められる。加えて、・・・・甲3の記載事項によれば、甲3には、甲3記載の水路に付着する生物の付着防止又は除去方法は、低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に水路に注入することによって、冷却系水路の内壁に付着するムサキイガイ等の生物を効果的に付着防止し、又は除去することが可能であり、また、二酸化塩素は有害な有機塩素化合物を形成しないことから、海や河川を汚染することもないという効果を奏することの開示があることが認められる」、「前記・・・・によれば、甲1ないし3、5に接した当業者は、過酸化水素と有効塩素剤とを組み合わせて使用する甲1発明には、有効塩素剤の添加により有害なトリハロメタンが生成するという課題があることを認識し、この課題を解決するとともに、使用する薬剤の濃度を実質的に低下せしめることを目的として、甲1発明における有効塩素剤を、トリハロメタンを生成せず、有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナトリウムよりも少量で付着抑制効果を備える海生生物の付着防止剤である甲2記載の二酸化塩素に置換することを試みる動機付けがあるものと認められるから、甲1及び甲2、3、5に基づいて、冷却用海水路の海水中に『二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる』構成(相違点1に係る本件発明1の構成)を容易に想到することができたものと認められる」と述べている。 |