知財高裁(令和元年7)“化合物事件本件訂正前の請求項1のただし書の『ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない』との文言は、その文理上、R1及びR2の両方が水素原子でないことを特定するにとどまり、R1及びR2のいずれか一方が必ず水素原子であることまで特定したものと理解することはできない。しかるところ、本件訂正前の請求項1の記載全体をみるとR1はフッ素であり』及び『R2は塩素であり』との記載があり、この記載はR1』を『フッ素』にR2』を『塩素』にそれぞれ特定したものであることは明らかである。そして、この記載は、R1及びR2の両方が水素原子でないことをも意味するものと理解できるから、その点においては、ただし書の記載と重複する内容を含むものであるが、相互に矛盾するものではない。また、本件明細書の『前記化学式1において、・・・R1及びR2は各々水素原子、C1C6アルコキシ、C1C6アルキルまたはハロゲンであり、・・・・前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する・・・・及び『本発明による前記化学式1で表される化合物において、特に好ましくは、・・・R1及びR2は水素原子、F、l、メチルまたはメトキシであり』・・・・との記載中には、化学式1(サイト注:請求項1に記載されている)のR1及びR2の例としてF(フッ素)及び(塩素)が開示されているから、本件訂正前の請求項1において『R1』を『フッ素』にR2』を『塩素』に特定することは、本件明細書の記載との関係においても整合するものである。そうすると、ただし書の記載と『R1はフッ素であり』及び『R2は塩素であり』との記載は特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項』であると理解できるものであり、本件訂正前の請求項1におけるR1及びR2の定義が不明瞭であるということはできない。このように訂正事項2は、本件訂正前の請求項1記載の『R2』の『塩素』を『水素』に訂正するものであるから、特許請求の範囲を変更するものである。また、本件訂正前の請求項1の『R1はフッ素であり』及び『R2は塩素であり』との記載文言から、R1は『フッ素又は水素』を、R2は『フッ素又は水素(サイト注『塩素又は水素』の誤りであると思われる)を実質的に意味するものと理解することはできないから、訂正事項2による特許請求の範囲の変更は、減縮的な変更には当たらない。そして、訂正事項2により、請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項1に記載される化合物1の置換基である『R2』が塩素である化合物群から訂正後の『R2』が水素である化合物群に変更されることになるから、この変更により、本件訂正前の請求項1の記載の表示を信頼した第三者に不測の不利益を与えることになることは明らかである。したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を変更するものと認められるから、特許法126条6項の要件に適合しないというべきである」と述べている。

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