知財高裁(令和元年8)“アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法事件特許法6条6項1号は、特許請求の範囲の記載に際し、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したものであり、その趣旨は、発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開されていない発明について独占的、排他的な権利を請求することになって妥当でないため、これを防止することにあるものと解される。そうすると、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決できると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である」、「本件発明は、アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法の発明であって未満の遊離S』と30未満の塩化物』と80未満のスルフェート』とを有することを特徴とするワインを製造するステップを含むものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる」、「本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題を明示した記載はないが、・・・・本件発明の課題は、アルミニウム缶内にパッケージングした『ワインの品質』が保存中に著しく劣化しないようにすること、ここにいう『ワインの品質』は『ワインの味質』を意味するものと理解できる」、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明の課題・・・・を解決できるかどうかを確認する方法は、味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを得ないことを理解できる」、「しかるところ、・・・・本件明細書の発明の詳細な説明には、白ワインの保存評価試験・・・・において『許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された』ワインの保存開始時・・・・の塩化物及びスルフェートの各濃度についての具体的な開示はなく、仮にこれらの濃度が、本件発明で規定するそれぞれの濃度・・・・の範囲内であったとしても、それぞれの上限値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから、上記保存評価試験の結果から、本件発明の対象とするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(30未満)及びスルフェートの濃度範囲(80未満)の全体にわたり『ワインの味質』が保存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認されたものと認識することはできないというべきである。また、・・・・ワインを組成する一般的な物質のうち、遊離S、塩化物イオン・・・・及びスルフェート・・・・以外にも、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸がアルミニウムの腐食原因となることは、本件優先日当時の技術常識であったことが認められる。このような技術常識に照らすと、本件明細書の発明の詳細な説明には、白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成についての記載はないものの、これらのアルミニウムの腐食原因となる物質も、当該ワインの組成に含まれており、・・・・味覚パネルによる官能試験の試験結果に影響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度30未満及びスルフェートの濃度80未満の数値範囲の全体にわたり本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められないから、本件発明は、サポート要件に適合するものと認めることはできない」と述べている。

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