知財高裁(令和元年9)“ゲームシステム作動方法事件特許法102条3項所定の『その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額』については、平成0年法律第1号による改正前は『その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭』と定められていたところ『通常受けるべき金銭の額』では侵害のし得になってしまうとして、同改正により『通常』の部分が削除された経緯がある。特許発明の実施許諾契約においては、技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で、被許諾者が最低保証額を支払い、当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し、技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には、侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして、上記のような特許法改正の経緯に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。したがって、実施に対し受けるべき料率は、@当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、A当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、B当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、C特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである」、「本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ、本件特許Aの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、本件アンケート結果では2.5%(最大値4.5%、最小値0.5%、標準偏差1.5%)であり、同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものであることが認められる。そして、このことを踏まえた上、侵害品(サイト注:間接侵害品)に係るゲームソフトにおいては、ゲームのキャラクタや内容、販売方法の工夫等が、その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはいえ、本件発明A1に係る技術も、売上げの向上に相応の貢献をしていると認められることや、本件発明A1の代替となる技術は存在しないこと、控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率(以下本件実施料率Aという)は、消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し、3.0%を下らないものと認めるのが相当である」、「イ−9号製品等のうちには、本件発明A1の第2の記憶媒体に該当するゲームソフトのほかに、1個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソフト(記憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ、これらのゲームソフトは、本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するものではなく、かつ、イ−9号製品等に含まれなくとも、単体で販売の対象となる商品である。また、・・・・本件調査報告書には、本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件について、特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとしても、侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルティ算定、契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載されている。そうすると、侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する部分については、本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除するのが相当というべきであるから、イ−9号製品等の販売価格を侵害品であるゲームソフトとそれ以外のゲームソフトとの合計数で除したものをもって、本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。また、・・・・イ−9及び3A号製品には、本件発明A1の第2の記憶媒体に該当するゲームソフトのほかに最強データ収録CD−ROMやグッズが同梱されているものもあるが、上記CD−ROMは、ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず、それらが単独で商品として流通するものではないから、当該製品の販売価格全体をもって、本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。他方、イ−9号製品・・・・は、同日付で発売されたイ−5号製品・・・・に対して、4820円高く価格が設定され、その製品の相違は同梱グッズのみであって、イ−9号製品に含まれる同梱グッズの価格は、おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるから、同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である」、「以上によれば、本件特許権Aの侵害(サイト注:間接侵害)について、特許法102条3項により算定される損害額は、別紙0のとおり計算され、その合計額は1億1667万3710円となる」と述べている。

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