大阪地裁(令和2年1月20日)“油冷式スクリュ圧縮機事件”は、「本件発明の作用効果は、スラスト軸受の負荷容量を大きくすること、バランスピストンの受圧面積を大きくすること、逆スラスト荷重状態の発生をなくすことなど、単純かつコンパクトな構造で、振動、騒音を低減させることができるというものであり、技術的にはさておき、本件発明の実施品ないしこれを組み込んだシステムの経済的価値に強いインパクトを及ぼすような性質のものとは必ずしもいえない。このことは、被告製品2−2及び2−3につき、被告がその販売促進活動において本件発明の作用効果に直接的に言及していないこと、NewTonシステムに対する外部的な評価(サイト注:表彰の受賞理由や顧客による評価)においても、本件発明の作用効果に直接的に関わるものは見当たらず、これを示唆するものもないこと、特許権者である原告自身も、スクリュ圧縮機等である原告各製品において本件発明を実施していないことによっても裏付けられる。そうすると、本件発明の作用効果それ自体には、それほど強い顧客吸引力はないと見るのが相当である。また、弁論の全趣旨によれば、NewTonシステムは被告製プラントの顧客吸引力の中核を成す部分であり、被告製品2−2及び2−3は、NewTonシステムを稼働させるために不可欠な部品であることが認められる。そこで、NewTonシステムの顧客吸引力を検討すると、被告は、NewTonシステムの販売促進活動において、省エネ、安全性、サポート体制等を特徴とするものであるとの点を強調している。しかも、被告が強調するNewTonシステムのこれらの特徴は、表彰の受賞理由とされ、また、その導入の動機となり、現にその実績も上がっているとされるなど、第三者からも積極的に評価されていることがうかがわれる」、「被告製品2−2及び2−3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占める割合は、被告製品2−2及び2−3の技術的・商業的価値を直接的に反映したものではないが、これを推し測る一事情とはなるところ、被告製品2−2及び2−3がNewTonシステムを可動させるために不可欠な部分であるといっても、NewTonシステムの製造原価における被告製品2−2又は2−3の製造原価の割合は、●(省略)●にとどまる」、「NewTonシステムを使用した被告製プラントとそれ以外の同様のプラントの販売実績は、アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機市場が事実上被告と原告の二社寡占状態であることに鑑みると、原告及び被告の各製造に係る圧縮機の納入実績におおむね対応するものと推察されることから、NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売実績の方が右肩上がりである●(省略)●。また、被告製プラントで使用されるNewTonシステムに組み込まれる圧縮機として被告の製造に係るもの以外のもの(おのずと、原告の製造に係る製品がその候補となる。)が組み込まれるという事態は考え難い。そうすると、被告が非侵害品を販売していたり、販売することが容易であったりすれば、仮に被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムが販売されなかったとしても、需要の多くは被告の製造に係る非侵害品等を組み込んだNewTonシステムを使用したプラントに向かったであろうと考えるのが合理的である。そして、被告は、被告製品2−2及び2−3以外にも、本件発明を侵害しないNewTonシステム専用品として、被告製品2−1を製造しており、これによって被告製品2−2及び2−3に代替することが考えられる。なお、原告は、被告製品2−1が組み込まれたNewTonシステムの販売実績が少なかったことを指摘するけれども、現に納入実績がある以上、需要者の需要を満たすものである限り、被告製品2−1による代替に需要が向かう可能性を否定することはできない。また、被告は、本件特許権侵害行為当時、被告製品2以外にはNewTonシステム専用の油冷式スクリュ圧縮機を製造していなかったものの、弁論の全趣旨によれば、NewTonシステムにおいて、本件特許権の侵害を回避するために、例えば油ポンプを加えて加圧流路を設けることについての物理的な制約はさほどなく、また、コスト的にも問題とすべき程度に至るとは見られない。そうすると、被告製プラントを欲する需要者の要望に対し、既存機種をベースとしたカスタマイズ等の形で対応し、本件特許権侵害を回避することは比較的容易であったとうかがわれる。実際には、本件特許権の非侵害品であるNewTonシステム専用の圧縮機としては被告製品2−1しかなく、また、上記カスタマイズといった対応も取られなかったとはいえ、推定を覆滅すべき事情としては、この点も考慮するのが合理的である。この点につき、原告は、競合品として考慮できるのは現実に市場に存在した製品に限られると主張するが、上記のとおり、これを採用することはできない」、「以上の事情を総合的に考慮すると、本件においては、被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントの販売がなかった場合に、これに対応する需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮機、更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく、むしろ、そのような需要はごく限られると考えられる。そうすると、本件では、9割の限度で、特許法102条2項による推定を覆滅するのが相当である」と述べている。 |