東京地裁(令和2年)“加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置事件本件訂正発明1−1についてみると、構成要件1−1Eは『吸引端は、前記加熱調理部から前記焼き網を通過して立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置で前記加熱調理部に臨まされている』とするから、本件各発明を実施するためには、排気装置の生産、使用に当たり、その吸引端をこの『熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置』とする必要があり、熱気流の上部を検知できなければならない」、「本件明細書1によれば『熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置』は、本件図に示された加熱調理部の上部にある本件三角形状(サイト注:吸引端による吸引をしない状態における熱気流の形状であってローソクの炎のような形状)の頂点である熱気流の上端部を吸引端が包むことができる位置であり、熱気流の上部とは、本件三角形状の頂点である熱気流の上端部をいうものといえる」、被告は、熱気流の上部を特定することができず、本件訂正発明1が実施可能要件に違反すると主張する。熱気流そのものは目視できないものの、原告は、本件明細書1には加熱調理部からの煙もこの熱気流に乗って流れる傾向にある・・・等の記載があることを挙げて、熱気流に乗って流れる煙を目視することで、熱気流の上部を知ることができる旨主張する」、炭火コンロにおける煙の立ち上り方等についてみると、加熱調理部である炭火コンロから発生する煙の様子を通常のカメラで撮影した動画・・・によれば、加熱調理部から発生した煙は、いずれも上方に行くにしたがって徐々に拡散しており、加熱調理部の上方のいずれかの位置において、本件図に示された本件三角形状のように収束する様子は見られない。原告は、上記動画・・・0秒及び2秒時点における煙の動き・・・を見ると、炭火コンロから発生した煙は炭火コンロの中央上部に向かって収束するように立ち上っていることが見て取れると主張する。しかし、煙がコンロの中央上部に向かって立ち上るようにみえる動きをする瞬間があったとしても、一定の時間を通じて見ると、加熱調理部から発生した煙は、いずれも上方に行くにしたがって徐々に拡散しており、加熱調理部の上方のいずれかの位置において、本件図に示された本件三角形状のように収束する様子は見られない。これらによれば、本件各発明を実施しようとする者が、煙の動きを観察したとしても『熱気流の上部』の位置を特定することができるとは認められないというべきである」、原告は、炭火コンロをサーモグラフィー(物体から放射された赤外線をレンズでサーモパイルと呼ばれる検出素子に集光し、これを増幅し、放射率補正を行って温度を色により表示する計測器・・・)によって撮影した動画・・・を見ると、加熱調理部から発生する高温部分は、上昇するに伴い中央部分に三角形状に収束し、その後空中に拡散している様子が観察でき、これが本件三角形状である旨主張する。原告が提出する上記各動画・・・を見ると、加熱調理部である炭火コンロの上部に三角形状の高温部分が存在することが認められるものの、被告が撮影した同様の動画・・・には、原告の上記各動画に現れているような三角形状の高温部分は撮影されていない。気体は赤外線の放射エネルギー量が非常に小さく、サーモグラフィーは気体の温度測定に適さないこと・・・に照らしても、原告の提出する各動画において観察される三角形状の高温部分は、加熱調理部から発生する熱気流のうち、サーモグラフィーで捉えられる一部のみが撮影された可能性があり、これらの動画から、直ちに炭火コンロから発生する熱気流が三角形状に収束し、サーモグラフィーにより熱気流の上端部を知ることができると認めることは困難である。また、原告が同一の炭火コンロをサーモグラフィーと通常のカメラの両方で撮影したとみられる動画・・・によれば、煙は、サーモグラフィーで撮影された上記高温部分に沿うことなく、これとは関係のない形状で上昇していると認められる。本件明細書1によれば煙は熱気流に乗って流れるというのであるから、熱気流に乗って流れる煙の形状とも異なる上記高温部分の存在により、熱気流の上端部を認識することができるとも認められない。以上によれば、本件特許1の出願当時(平成4年)において、仮に当業者においてサーモグラフィーを使用することがあったとしたとしても、本件明細書の記載や技術常識に基づいて、加熱調理部から立ち上る熱気流の全体やその熱気流の上部を検知することはできない」、「以上によれば、本件訂正発明1−1を実施するためには、排気装置の生産、使用に当たり、その吸引端を熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置(構成要件1−1E)とする必要があるところ、本件明細書1において、当業者が熱気流の上部を検知して本件訂正発明1−1を生産、使用することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとは評価できない」と述べている。

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