東京地裁(令和2年)“チューブ状ひも本体を備えたひも事件本件共同出願契約における本件定めが特許法3条2項の『別段の定め』に該当すること、原告は平成8年4月以降、被告A、B及びCの同意を得ることなく本件発明の技術的範囲に属する原告製品を製造・販売したこと(原告販売行為、被告会社は遅くとも平成9年4月以降、原告の同意を得ることなく本件発明の技術的範囲に属する被告製品を販売したこと(被告販売行為)は、当事者間に争いがない」、「原告は、被告Aは原告の同意を得ることなく被告会社に被告販売行為をさせたことにより『別段の定め』である本件定めに違反したから、被告販売行為は本件特許権1に係る原告の持分権を侵害する旨主張する。本件定めは、特許法3条2項の『別段の定め』として、本件各特許権の共有者がその特許発明の実施である生産又は販売をすることについて、事前の協議及び許可を要するとして、他の共有者との事前の協議及び許可がなければ本件発明を実施することができないとしてその実施を制限している。そして、本件定めは、これに違反した場合には『本件の各権利は剥奪される』との効果を定めるところ、本件定めによって、共有者は他の共有者の実施に対して許可を与え、また許可を与えないことができ、許可を与えない限り他の共有者は本件各特許権に係る発明を実施することができなかったのに対し、上記『剥奪』に係る定めにより、違反をした共有者は、違反行為後は、少なくとも、他の共有者に対してそのような許可を与えたり、許可を与えないとしたりする根拠を失うと解するのが相当である。そして、その結果、違反者以外の共有者は、違反者との事前の協議及び許可を得なくとも、違反者以外の共有者との事前の協議及び許可により本件各特許権を実施できるようになると解される。被告Aは、平成9年4月から、原告の協議及び許可を得ることなく被告販売行為を行うなどして本件特許権1を実施し、原告は、被告販売行為に対して原告の協議及び許可がないとしてこれが本件定めに反すると主張する。しかし、原告は平成8年4月以降の原告販売行為により本件定めに違反しており、その結果、前記に述べたところにより、他の共有者の実施に対して許可を与えたり、許可を与えないとしたりする根拠を失い、被告Aは、平成9年4月時点では、原告の協議及び許可を得ることなく本件特許権1を実施することができたというべきである。したがって、被告販売行為は本件定めに違反するものではなく、その余を判断するまでもなく、それが原告の本件特許権1に係る持分権を侵害することはない。また原告は、被告Aによる本件定めの違反は本件共同出願契約の債務不履行に該当するから、本件共同出願契約によって行われた本件各特許権に係る特許を受ける権利の持分譲渡を解除するとも主張するが、上記のとおり被告Aが本件定めに違反したとはいえないから、原告の上記主張は前提を欠く。したがって、被告Aが本件特許権1に係る原告の持分権を侵害する旨の上記原告の主張には理由がない」と述べている。

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