東京地裁(令和2年)“流体供給装置事件被告は、ガソリンスタンドには、ガソリンスタンドにガソリン等を供給する販売会社(元売り)ごとに系列があり、ガソリンスタンドの設定器は、当該ガソリンスタンドが属する系列(石油の元売り)が指定する機能や施策を備える必要があり、系列が異なる原告と被告(旧EMG系列ガソリンスタンド)との間で市場が競合することはないこと、ガソリンスタンドでは、従来の設定器を更新して新たな設定器を納入する場合、従前の設定器と異なるメーカーの製品を導入することはないことなどを挙げて、被告設定器と原告らが製造販売する設定器の市場が異なると主張する。そして、被告が販売により得た利益と原告が受けた損害との因果関係を否定し、また、特許法102条2項に基づく損害の推定が覆滅されると主張する」、「ガソリンスタンドには、特定の元売りごとに、その元売りの系列のガソリンスタンドが存在し、同じ系列のガソリンスタンドでは、決済方法を含めたサービス等の施策として、元売りにおいて同じ施策を採用し、その施策が一斉に始まることもある。また、系列のガソリンスタンドにおいて、設定器をどの会社から購入するかについて、指定と呼ばれる制度が存在することがあり、旧EMG系列ガソリンスタンドでは被告がその指定を受けていた。しかし、ガソリンスタンドにおいて、一度特定の会社から設定器を購入すれば、その後、別の会社の設定器を全く採用することができなくなるとか、上記の指定について変更をすることができないといった事情は認められない。かえって、被告が新たに複数の系列のガソリンスタンドにおける設定器の販売元として指定されたこと・・・・もあったことなどに照らせば、指定の追加や変更も一般的に行われていることであると推認できる。被告による被告設定器の販売がなかった場合に被告が前記で記載した内容の指定を継続できていたと認めるに足りる証拠もない。以上によれば、被告が設定器を販売したガソリンスタンドに対し原告が設定器を販売することが全くできなかったとは認められないから、被告設定器の販売と原告の損害との間には、相当因果関係があるといえ、被告による被告設定器の販売と原告の損害の全部について相当因果関係が欠けるとはいえない。もっとも、同じ系列のガソリンスタンドでは、決済方法を含めたサービス等の施策として、元売りにおいて同じ施策を採用し、その施策が一斉に始まることもあるところ、その実施のために設定器が必要な場合には、その系列のガソリンスタンドでは、それに対応した機能ないし仕様を有する設定器が設置される必要があり、上記の機能ないし仕様に関係なく設定器を販売することができる市場があるとはいえない。また、系列のガソリンスタンドにおいて、設定器をどの会社から購入するかについて、指定と呼ばれる制度が存在し、指定された会社の設定器がその系列のガソリンスタンドに販売される場合がある。そして、指定会社同士の営業が過熱することがあるなど・・・・、複数社が指定されることもあるが、被告は、平成8年から旧EMG系列ガソリンスタンドへの設定器の販売を開始し、EMGマーケティングが吸収合併等されたという大きな事情の変更があったにもかかわらず、平成0年4月までの少なくとも3年以上、旧EMG系列ガソリンスタントとの関係では、被告のみが指定されていた。そして、被告は、現に旧EMG系列ガソリンスタンドに対して相当多数の設定器を販売し、旧EMG系列ガソリンスタンドに設置されている設定器の大多数は被告が販売した。特許法102条2項の推定は、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情が認められる場合に覆滅すると解される。上記のようなガソリンスタンドの設定器をめぐる市場の事情に被告と旧EMG系列ガソリンスタントとの営業上の関係等が強いものであったことがうかがえることなどに照らせば、被告が販売した被告設定器と同数について原告が設定器を販売することができたとは認められず、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情があると認められる。そして、上記に述べたところによれば、被告が販売した被告設定器の台数のうち、少なくとも0パーセントの台数・・・・について原告が同様の設定器を販売することができなかったと認められる。そうすると、それによって、被告が被告設定器を販売したことに基づく特許法102条2項に基づく損害については、0パーセントの割合で覆滅すると認められると述べている。

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