知財高裁(令和2年)“保温シート事件本願発明に係る特許請求の範囲については、本件出願時には『通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体』と記載されていたものが、本件補正後には『通気性及び通水性が確保され且つ透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体』へと記載が変更されたものであり、本件カバー体につき『通水性』及び『透光性』を有する旨の記載が追加されたものといえる。そして、・・・・本件当初明細書等には、本件カバー体が通水性を有する旨の記載・・・・は存するものの『透光性を有する』との事項に対応する明示的な記載は存しない。そこで、本件カバー体が『透光性を有する』との事項が、本件当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるか否かについて、以下、検討する」、「本件出願時における当業者は、織布又は不織布について遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ、当該織布又は不織布は透光性を有するものであると当然に理解するものといえる。そして、・・・・本件当初明細書等には、織布又は不織布から構成される本件カバー体につき、遮光性能を有する旨や遮光性能を付与するための特別な方法が採られている旨の明示的な記載は存せず、かえって、本件カバー体が通気性や通水性を有する旨の記載・・・・や、本件カバー体の表面の少なくとも一部は本件カバー体を構成する材料がそのまま露出し、通気性や通水性を妨げる顔料やその他の層が形成されていない旨の記載・・・・が存するところである。このような本件当初明細書等の記載内容からすれば、当業者は、本件カバー体を構成する織布又は不織布について、特殊な製法又は素材を用いたり、特殊な加工が施されたりするなど、遮光性能を付与するための特別な方法は採られていないと理解するのが通常であるというべきである。そうすると、本件当初明細書等に接した当業者は、本件カバー体は透光性を有するものであると当然に理解するものといえるから、本件カバー体が『透光性を有する』という事項は、本件当初明細書等の記載内容から自明な事項であるというべきである」、「以上によれば、本件補正は、本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、特許法7条の2第3項の要件を満たすものと認められる」、「被告は、特殊な処理がされていない布は透光性を有するとの原告の主張について、単に光が布を通りさえすれば『透光性を有する』とすることを前提とするものであるなどと主張する。しかしながら、・・・・『透光性』の用語の意味からすれば、たとえわずかであっても光を透過させて他面から出す性質を有するのであれば『透光性を有する』ということになるのであるから、被告の主張は当を得ないものといわざるを得ない」、「被告は、本件カバー体について『透光性を有する』との特定をすることは、透光に関する何らかの技術的特徴に対応した限定であると通常理解されるから、このような特定を追加することは、本件当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を追加するものである旨主張する。また、被告は、この追加により、実質的に、基材の断熱面に光が到達する構成が追加され、本願発明は、この構成に対応する新たな技術的意義又は新たな作用・効果を有することとなった旨主張する。確かに、・・・・本件意見書には、本願発明における独自の作用効果の記載として、本件カバー体が透光性を有していることから、本件カバー体を透過して断熱面に照射された光が、断熱材に含まれた二酸化チタンを光触媒として作用させ、十分な消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効果が発生する旨の記載が存することが認められる。しかしながら、本件当初明細書等には『顔料は光を反射する白色の二酸化チタンであり、』・・・・との記載が存するのみであって、二酸化チタンの光触媒作用や消臭効果等に関する記載は何ら存しない・・・・。そして、その後の数次の補正を経た後の明細書、特許請求の範囲又は図面をみても、二酸化チタンの光触媒作用であるとか、それによる消臭効果等については、何らの記載も追加されていない・・・・。このように、本件意見書に記載された上記の各事項については、本願発明に係る明細書等において何ら触れられていないのであるから、本願発明には、これらの事項に関する技術的意義や作用・効果が含まれるものではなく、また、本願発明に係る明細書等に接した当業者においても、本願発明にこのような技術的意義又は作用・効果が存すると理解することはないというべきである。なお、本願発明における二酸化チタンが、顔料として利用されるだけでなく、光触媒作用を発揮して消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効果を発生させるものと認めるに足りる証拠は存しない。以上によれば、本件補正により、本件カバー体について『透光性を有する』という事項が追加されたからといって、本願発明に上記のような技術的意義又は作用・効果が新たに導入されるものではないというべきである」と述べている。

特許法の世界|判例集