知財高裁(令和2年12月15日)“パロノセトロン液状医薬製剤事件”は、「本件明細書・・・・には、本件各発明の課題は、医薬安定性が向上し、長期間の保存を可能にするパロノセトロン製剤とその製剤を安定化する許容される濃度範囲を提供することである旨が記載されている。そして、・・・・『長期間』の具体的な長さに関する言及はないが、出願審査中の平成25年11月14日の手続補正・・・・により各請求項に24ケ月要件が追加されたので、『長期間』は24ケ月以上を意味することになったといえる」、「本件明細書においては、パロノセトロン又はその塩を含む溶液は、pH及び/又は賦形剤濃度の調整並びにマンニトール及びキレート剤の適切な濃度での添加によって、安定性が向上することが記載され、実施例1〜3において、製剤が最も安定するpHの値、クエン酸緩衝液及びEDTAの好適な濃度範囲、マンニトールの最適レベルが示され、実施例4、5に代表的な医薬製剤が示されているが、実施例4、5においては、実際に安定性試験が行われていないため、そこに記載された医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえない。また、その他の箇所をみても、安定化に資する要素は挙げられてはいるものの、それらが24ケ月の貯蔵安定性を実現するものであることについての直接的な言及はないし、どのような要素があればどの程度の貯蔵安定性を実現することができるのかを推論する根拠となるような具体的な指摘もなく、結局、具体的な裏付けをもって、具体的な医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえない」、「そうすると、本件明細書には、24ケ月要件を備えたパロノセトロン製剤が記載されているとはいえないし、本件出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本件各発明につき、医薬安定性が向上し、24ケ月以上の保存を可能にするパロノセトロン製剤とその製剤を安定化する許容される濃度範囲を提供するという本件各発明の課題・・・・を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない」、「サポート要件適合性は、明細書に記載された事項と出願時の技術常識に基づいて認定されるべきであるから、・・・・本件明細書と技術常識によっては24ケ月要件を備えた製剤が記載されていると認識することができないにもかかわらず、本件出願後に実験データ・・・・を提出して明細書の上記不備を補うことは許されないというべきである」、「本件各発明はサポート要件を充足しない旨の本件審決の判断に誤りがない」と述べている。 |