東京地裁(令和2年12月1日)“ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造事件”は、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解される。原告は、ピストン式圧縮機を製造・販売しており、被告は、平成24年12月以降、原告が製造・販売する上記製品と競合し得る製品である被告各製品を輸入・販売していた・・・・。また、後記・・・・のとおり、被告による被告各製品の輸入・販売行為がなかったとしても原告が原告の製品を販売できなかったという事実関係を認めることはできない。本件では、原告には、被告による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するといえ、特許法102条2項の適用が認められるといえる」、「被告は、被告各製品が被告親会社、被告、JCS、マツダを順に経て取引されていること、これが関係会社間の取引であるため他社が参入する余地がないこと、被告各製品は個別の受注により開発、製造、販売をするオーダーメイドに近い製品であり、被告各製品の販売がなかったとしても、顧客であるマツダは他のタイプの圧縮機を被告親会社のグループに提案依頼して代替品を購入したと考えられ、マツダと競合するトヨタ自動車グループの原告に製品の提案依頼を求めたとは考えられないことから、本件において、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情は存在しないと主張する。しかし、原告が製造、販売するピストン式圧縮機と被告各製品は競合品なのであるから、被告が被告各製品をそれらの者に販売することができなければ、その需要は、原告が製造、販売するピストン式圧縮機等に向かい得るものであった。そして、被告各製品が、被告親会社、被告、JCS、マツダの順に取引されるものであり、被告親会社のグループとマツダとの関係が緊密であり、また、マツダとトヨタ自動車が競合する会社であったとしても、そのことによって、原告の製品をそれらの会社に販売することが一切できなかったことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって、原告が製造販売する電動コンプレッサーは平成25年頃からマツダが製造販売するハイブリッドカーに搭載されており・・・・、また、トヨタ自動車株式会社とマツダは平成27年5月に『互いの経営資源の活用や、商品・技術の補完など、相互にシナジー効果を発揮しうる、継続性のある協力関係の構築に向けた覚書』に調印し、平成29年8月に『業務資本提携に関する合意書』を締結していること・・・・などの事実があるので、これらに照らせば、被告各製品が販売された平成24年12月以降の時点において、原告がトヨタ自動車グループであったとしても、マツダやその関連会社と取引することがあり得なかったとは認められない。被告の主張には理由がない」と述べている。 |