東京地裁(令和2年12月1日)“ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造事件”は、「特許法102条3項による損害額として、侵害品の売上高を基準とし、そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定する場合、実施に対し受けるべき金銭の料率の算定に当たっては、@当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、A当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、B当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様、C特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである」、「本件訴訟において、本件特許権についての実際の実施許諾契約の実施料率は現れていない。本件特許権の技術分野に近似する分野(『機関またはポンプ』)の実施料率についてのアンケート調査結果によれば、実施料率3〜4%未満の例が最も多く(37.5%)、実施料率5〜6%未満の例や実施料率2〜3%未満の例は同数(12.5%)、実施料1〜2%未満は3件(18.8%)とされており・・・・、また、他の調査結果やデータベースには、実施料率3%又は6%の例・・・・や実施料率5〜8%又は3%の例・・・・もあったとされていることからすれば、圧縮機の分野では、実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ、その前後の実施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる」、「本件訂正発明は、ロータリバルブを用いたピストン式圧縮機における体積効率の向上という効果を奏しているものであるが、具体的にどの程度の体積効率の向上がもたらされるかは明らかではなく、また、このような本件訂正発明の作用効果に対する顧客誘引力等は限定的なものであったことがうかがわれる。被告は、被告各製品の販売先であるマツダに対し、本件訂正発明を実施しない設計変更後の製品を継続して販売しており・・・・、このことからも、本件訂正発明は、その顧客誘引力が相当に限定的であったことや、被告各製品の販売において代替不可能な技術であったとはいい難いものであったことがうかがわれる。そして、特許法102条3項の損害額の算定に当たっては、被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されており、被告各製品の売上高は、クラッチ部分を含む被告各製品の売上高であるという事情も考慮する必要がある」、「本件においては、被告による特許権の侵害があったこと、原告と被告は競業関係にあること、ロータリバルブを備えたピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり、相互にライセンスを行っていない閉ざされた市場傾向にあること・・・・などの事情がある一方で、前記・・・・のとおりの本件訂正発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性を考慮した本件特許権の価値は限定的であるといえること、被告各製品の売上高はクラッチ部分を含むものであるなどの事情があり、これらの本件訴訟に現れた事情を考慮すれば、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、2%と認めるのが相当である」と述べている。 |