東京地裁(令和2年12月8日)“塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム事件”は、「被告は、仮に本件発明の組成値を満たすラップフィルムであれば本件発明の物性値も満たすという関係が否定されるのであれば、当業者において、本件発明の組成値を含む多数の要素をどのように調整すれば、本件発明の効果を奏するラップフィルムを得ることができるのかを認識することができないか、あるいは過度の試行錯誤をしなければこれを認識することができないから、本件特許は、実施可能要件を満たさない旨を主張する」、「そこで検討するに、本件明細書には、本件発明の物性値(構成要件A、B、D)は、本件発明の組成値(構成要件E〜G)のみならず、その他の要素を調整することによって制御できる旨が記載されている。すなわち、具体的には、TD方向の引裂強度(構成要件A)について、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、延伸速度、フィルムの厚み等によって調整でき、特に制限されないが、例えば、TD方向の延伸倍率を低くしたり、ラップフィルムを厚くすることによって、向上する傾向にあり、TD方向の延伸倍率を高くしたり、ラップフィルムを薄くすることによって、低下する傾向にある旨が記載されている・・・・。また、MD方向の引張弾性率(構成要件B)について、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、延伸速度等によって調整でき、特に制限されないが、例えば、延伸倍率を高くしたり、添加剤量を低減することによって、向上する傾向にあり、延伸倍率を低くしたり、添加剤量を増加することによって、低下する傾向にある旨が記載されている・・・・。さらに、低温結晶化開始温度(構成要件D)を制御したラップフィルムの好適な製造方法として、塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押し出しした後の製造工程において、延伸温度30〜45℃条件下において、MD方向及びTD方向の延伸倍率を共に4〜6倍とし、MD方向の延伸速度を0.09〜0.12倍/s、TD方向の延伸速度を3.1〜4.0倍/sとし、延伸直後のフィルムの緩和時の雰囲気温度を25〜32℃に設定して、フィルム緩和比率を7〜15%とし、延伸後の原反を24時間以上5〜19℃で保管するなどの処置をすることによって、低温結晶化開始温度を40〜60℃に制御することができる旨が記載されている・・・・。そして、本件明細書の実施例及び比較例では、具体的な延伸条件等による物性値の調整方法(例えば、比較例1において延伸速度を、比較例2において緩和比率を、比較例3、4において原反の保管温度を、それぞれ上記数値範囲から外すことで、低温結晶化開始温度が40〜60℃から外れる。)が開示されている・・・・。そうすると、本件明細書に基づいて、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の組成値その他の要素を調整することにより、本件発明の物性値を満たすラップフィルムを製造することができるというべきである。被告の上記主張は採用できない」と述べている。 |