知財高裁(令和2年2月20日)“タイヤ事件”は、「甲1発明は、タイヤのサイドウォール面に設けた表示マークの識別性を向上させることを目的とするものであるから・・・・、当業者であれば、表示マークの識別性をさらに向上させることを検討すると考えられる。また、『近年は、特に乗用車用タイヤにおいて外観に優れたタイヤが好まれ、表示マークの見映えの向上も要望されるようになった』との記載・・・・からすれば、表示マークの識別性向上は、タイヤの外観を優れたものとするための一手段であり、甲1発明のタイヤの外観をさらに向上させる手段があるのであれば、それが望ましいことといえる。ここで、甲2文献は、空気入りタイヤを技術分野としているから・・・・、本件発明と技術分野が共通しており、しかも甲2文献は外観を向上することを目的とするとされているから、甲1発明に接した当業者であれば、甲2文献に記載された内容を検討対象とすると考えられる。そして、甲2文献の記載を具体的に見ると、時間の経過によって、タイヤのゴムに添加されたワックス等の油分や老化防止剤などの添加剤がタイヤの外表面に移行して滲み出し、外観を損ねるという現象を課題として認識し、これを解決するための技術的事項が記載されたものであることがわかる・・・・。このような現象は、甲1発明のタイヤ全体に生じうるものといえるが、そうなれば甲1発明のタイヤの外観を損なうことになる。また、このような現象は、甲1発明の表示マーク部分にも生じうるものであり、そうなれば表示マークの識別性の低下をもたらす。よって、甲2文献の記載事項は、表示マーク部分を含む、甲1発明のタイヤの外観をさらに向上させるのに適した内容と考えられるから、当業者であれば、甲1発明に甲2文献の記載事項を組み合わせることを試みる十分な動機付けがあるといえる」、「被告らは、甲1発明の表示マークを設けた領域以外のサイドウォール面にも甲2文献の粗面部を適用した場合、サイドウォール面でタイヤに当たる光を乱反射し黒っぽくなり、表示マークの識別性が低下するから、甲1発明の目的に反することとなるので、甲1発明に甲2文献の記載事項を適用することには阻害事由が存在する旨主張する」、「甲1発明に甲2文献の粗面部を適用しても、表示マークの識別性が低下するとは限らないから、被告らが指摘する点は、・・・・十分な動機づけに基づく甲1発明と甲2文献とを組み合わせるとの試みを、阻害するまでの事由とは認められない」、「以上のとおり、甲1発明と甲2文献の記載事項を組み合わせる動機づけがあり、当業者であれば、両者を組み合わせ、細溝を含むサイドウォール面全体に、5μm〜30μmの表面粗さを設ける構成に容易に想到すると認められる」と述べている。 |