知財高裁(令和2年)“配列操作のための系事件同条(サイト注:特許法9条の2)にいう先願明細書等に記載された『発明』とは、先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい、記載されているに等しい事項とは、出願時における技術常識を参酌することにより、記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。したがって、特に先願明細書等に記載がなくても、先願発明を理解するに当たって、当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方、抽象的であり、あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示が不十分であるような発明は、ここでいう『発明』には該当せず、同条の定める後願を排除する効果を有しない。そして、ここで求められる技術内容の開示の程度は、当業者が、先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度に記載されていれば足りるというべきである」、「これを本件についてみると、引用発明1の実施例1〜3には、引用発明1の(i)〜(B)の各ベクターを製造する方法が詳細に記載されており、実施例4には、ドナー配列(GFP遺伝子)が標的配列又はその近傍に組み込まれていることを確認するための具体的な試験方法も明記されている。また、・・・・実施例4の実験結果から、核局在化シグナルを含むRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、ガイドRNA、ドナーポリヌクレオチドの組合せが、真核細胞に組み込まれ、標的部位にて二本鎖の切断及び修復が生じていると理解することができ、実施例5の実験結果も上記の理解の妨げになるものとは解されない。さらに、上記(i)〜(B)のベクターを含むベクター系は、真核細胞内で適切に転写、翻訳、核移行等がなされるに必要な技術手段、及び、真核細胞内で適切に標的配列の改変がなされるに必要な技術手段を備えたものであるから、ベクター系にした場合でも、真核細胞中の標的配列を開裂し、標的配列の改変を行う機能を有するものと理解できる・・・・。そうすると、引用例1には、当業者が、先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度の記載があるといえるから、・・・・後願を排除するに足りる程度の技術が公開されていたものと認めるのが相当である」、本願発明は、引用発明1と同一であるから、特許法9条の2の規定により特許を受けることができない」と述べている。

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