知財高裁(令和2年)“遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR−系事件tracr配列の長さについては、6ヌクレオチドより短い場合との比較では、長い6ヌクレオチドの方が好ましいことは理解できるものの、引用例2には、6ヌクレオチドより長い場合で比較した場合に、より長さの大きいtracr配列の方が好ましいことを示す記載は、見当たらない。加えて、本件全証拠によっても、本願優先日当時、tracr配列の長さが大きければ大きいほど好ましいことを示す技術常識が存在したことを認めるに足りない」、「そうすると、引用例2の記載や本願優先日の技術常識を勘案しても、ゲノムの改変効率を向上させる観点で、引用発明2のtracrRNAの長さについて、引用例2に具体的に開示されている6から0以上に変更することを、当業者が動機付けられていたということはできない」、「また、本願優先日当時、引用例2の要約に記載された細菌や古細菌の獲得免疫に由来するCRISPR/s系・・・・を、緩衝液中での混合(試験管レベル)でなく、真核細胞に適用することができた旨を報告する技術論文や特許文献は存在しておらず、tracr配列の長さを0以上に設定するという技術手段を採用することで、真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果は、当業者の期待や予測を超える効果と評価することができる」、「したがって、相違点4として挙げた本願発明の発明特定事項、すなわち『tracr配列』について0以上のヌクレオチドの長さ』とすることは、引用例2の記載や本願優先日の技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえないものである」、被告は、・・・引用例2には・・・ヌクレオチドを付加してさらに長くすることを妨げる記載はなく、図3Aには、・・・さらに長いtracRNAも、・・・DNA切断を誘導できることが示されているとして、引用発明2のうちtracRNAを多少長くして0ヌクレオチド長程度のものとすることは、当業者が適宜なし得たことであると主張する。しかし、・・・図3Aには、・・・特に長いtracRNAの方が標的配列の開裂に優れることは開示されていない。また、引用発明2のtrac配列の長さを6から0にするには、5%以上長くする必要があるから、これが多少長くした程度のものであるとはいえない。さらに、上記のとおり、本願優先日当時、trac配列の長さが大きければ大きいほど、好ましいことを示す技術常識は存在せず、真核細胞にCRISPR/系を適用したことを報告する技術論文、特許文献も存在しなかったことからすれば、trac配列の長さを0以上に設定することに伴い真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果は、当業者の期待や予測を超えるものと評価されるというべきである。そうすると、上記主張は採用することができない」と述べている。

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