知財高裁(令和2年2月28日)“美容器事件”は、「本件発明2の特許請求の範囲の記載及び・・・・本件明細書2の記載からすると、本件発明2は、回転体、支持軸、軸受け部材、ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが、軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下、この部分を『本件特徴部分』という。)。原告製品は、・・・・支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより、肌を摘み上げ、肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから、本件特徴部分は、原告製品の一部分であるにすぎない。ところで、本件のように、特許発明を実施した特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべきである。そして、原告製品にとっては、ローリング部の良好な回転を実現することも重要であり、そのために必要な部材である本件特徴部分すなわち軸受け部材と回転体の内周面の形状も、原告製品の販売による利益に相応に貢献しているものといえる。しかし、上記のとおり、原告製品は、一対のローリング部を皮膚に押し付けて回転させることにより、皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器であるから、原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は、ローリング部の構成であるものと認められ、また、・・・・原告製品は、ソーラーパネルを備え、微弱電流を発生させており、これにより、顧客誘引力を高めているものと認められる。これらの事情からすると、本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから、原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく、したがって、原告製品においては、上記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。そして、上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け、原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮すると、同覆滅がされる程度は、全体の約6割であると認めるのが相当である」、「原告製品の『単位数量当たりの利益の額』の算定に当たっては、原告製品全体の限界利益の額である5546円から、その約6割を控除するのが相当であり、原告製品の単位数量当たりの利益の額は、2218円(5546円×0.4≒2218円)となる」、「原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっては、本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して、原告製品の限界利益の全額から6割を控除し、また、被告製品の販売数量に上記の原告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から、特許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に、一審被告の主張が、これらの控除とは別に、本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても、これを認める規定はなく、また、これを認める根拠はないから、そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない」と述べている。 |