東京地裁(令和2年2月28日)“発光装置事件”は、「本件発明1の課題は、従来の発光素子と比較して高輝度の発光が得られる発光素子の使用を前提として、そのような発光素子と蛍光体とを組み合わせて用いたとしても、長時間の使用環境下においても発光光度や発光効率の低下がなく、色ずれが少ない発光装置を提供することにあるというべきである。次に、上記の本件発明1の課題を前提として、本件発明1が発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるか否かについて検討すると、本件発明1の構成要件1Eは、『Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素とAl及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含む』というものである。そして、本件明細書1には、・・・・『ガーネット構造を有するので、熱、光及び水分に強く』との記載があり、また、・・・・本件発明1の実施例としてYをGdに0パーセント、20パーセント、40パーセント、60パーセント、80パーセント、100パーセント置換したものや、AlをGaに0パーセント、40パーセント、50パーセント置換したものが記載されており、それらはいずれも優れた耐候性を有することが示されている。そして、YとGd、AlとGaがそれぞれ類似した化学的性質を有することは技術常識であるといえる。そうすると、本件明細書1の各実施例からYとGd、AlとGaの置換割合を変化させたとしても、本件発明1の蛍光体がガーネット系の蛍光体である以上、『より高輝度で、長時間の使用環境下においても発光光度及び発光効率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供すること』という課題を解決できることは、当業者が認識できる範囲のものであるといえる。したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、特許法36条6項1号の要件(サポート要件)を充足する。これに対し、被告は、・・・・YAG系蛍光体同士を比較して『より高輝度』な発光を実現することが本件発明1の課題であることを前提として、本件明細書1にはそのような高輝度が実現できない態様のものまで記載されているから、本件発明1は特許法36条6項1号(サポート要件)に違反する旨の主張をする。しかし、本件発明1の課題は上記のとおりであり、被告の主張はその前提に誤りがあるから理由がない。また、被告は、YAG系蛍光体の変換効率や耐久性などがYAG系蛍光体以外の他の蛍光体と比較して優れていることは、・・・・本件特許権1の第1優先日当時の当業者にとって技術常識であったから、YAG系蛍光体以外の蛍光体とYAG系蛍光体とを比較して高輝度を維持することは本件発明1の課題ではないと主張する。しかし、上記説示のとおり、本件発明1は、従来の発光素子と比較して高輝度の発光が得られる発光素子を用いることを課題の前提とするものであり、発光装置の輝度の高低そのものを本件発明1の課題とするものではないから、被告の主張は上記認定を左右するものではない」と述べている。 |