東京地裁(令和2年2月5日)“ハーネス型安全帯の着用可能な空調服事件”は、「被告各製品の製造等に関し、被告らが先使用による通常実施権を有するというためには、被告らにおいて考案の実施である『事業の準備』(実用新案法26条、特許法79条)をしていたこと、すなわち、その考案につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを要するものと解される(特許法79条に関する最高裁昭和61年・・・・10月3日・・・・判決・・・・参照)」、「これを本件についてみると、本件出願日(サイト注:平成27年5月11日)までの被告らにおけるフルハーネス対応空調服の開発状況等は・・・・@被告ら代表者は、平成27年3月3日頃、背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け、その先端部分を紐様のものなどを用いて縛る構成を有する空調服に係る着想を得て、その構成を手書きで図示した乙11図面を作成し、同月4日、そのデータをゼハロスに送信して、試作品の作成を依頼したこと、Aゼハロスは、同月31日までに、背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け、その先端部分を紐及びコードストッパーを用いて縛る構成を有しており、被告各製品と同様の構成を有する本件試作品を作成したこと、B被告らは、同年4月7日、被告において購入したハーネス型安全帯を用いて本件試着品の試着をしたことが認められる。しかしながら、フルハーネス対応空調服の構成に係る手書き図面が作成され、その試作品を作成して、社内でその試着をしたからといって、被告らにおいて、即時実施が可能な状況にあったかは必ずしも明らかとはいえないところ、・・・・被告らが被告各製品の製造、販売等を開始したのは平成28年5月であり、本件試作品が作成され、試着された平成27年3月及び同年4月から1年以上を要したことにも照らせば、本件出願日の時点では、少なくとも、本件考案の実施に当たる被告各製品の事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度に表明されていたということはできないというべきである」、「被告は、・・・・Aゼハロスは、被告ら代表者の上記の依頼を受け、他社に委託するなどして、平成27年3月31日までに、本件試作品を作成しているところ、被告らが、莫大な時間、労力、資金を投下して、既存の空調服を研究、開発し、商品化してきたこと、本件考案は、既存の空調服に筒を取り付けるだけで完成するシンプルな構成であることなどに照らすと、被告らは、本件試作品の作成によって、フルハーネス対応空調服に係る事業活動のほとんどを完了しており、被告らによる即時実施の意図が客観的に表明されていること、・・・・C被告らは、平成27年4月7日、本件試作品の試着を行い、被告ら代表者においてフルハーネス対応空調服は完成したと強い手応えを感じ、同空調服の販売の意思はより強固なものになったから、遅くともその時点で、被告らによる販売の意思は確定的なものとなったことなどを主張する」、「上記A、Cについて、本件考案は既存の空調服の背中部分の構成を変更するにとどまるものであり、被告らは既存の空調服の研究、開発実績を有していると認められたとしても、試作品が一度作成され、社内でその試着がされただけでは、製品化に耐えるものであるか未だ明らでなく、試着の結果を踏まえて設計の見直し等の作業が必要になるであろうことは十分に考えられるところである。被告らが被告各製品の製造、販売等を開始したのはその後1年以上が経過した平成28年5月であったことなどにも照らせば、本件試作品が作成されたことや試着されたことをもって、被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度に表明されたということはできない」と述べている。 |