知財高裁(令和2年)“多結晶質シリコンロッドの粉砕方法事件請求項1には『炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径』との記載があるところ、・・・・この炭化タングステン粒子は『少なくとも二個の粉砕工具』の『工具表面』に『含有』されるものである」、「請求項1の記載からは、粉砕工具の『工具表面』に『含有』される炭化タングステン粒子の『質量により秤量』したメジアン粒径の意義が明らかであるとはいえない。また、本件特許の出願当時において、炭化タングステンを含んでなる表面を有する粉砕工具の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき、質量により秤量したメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証拠はない」、「本件明細書には『炭化タングステンを含んでなる表面を有する『粉砕工具』の『工具表面』のタングステン含有量が5%以下であり、工具表面の材料における100%に対する残りは、好ましくはコバルト結合剤であり、好ましくは1%未満の程度に追加の炭化物が存在する・・・・、焼結の結果は、炭素の添加によっても影響を受ける・・・・との記載があり『炭化タングステンを含んでなる表面を有する『粉砕工具』の『工具表面』の炭化タングステン粒子が、コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そして、本件明細書には、コバルト結合剤と焼結により一体化した『粉砕工具』の『工具表面』に『含有』される炭化タングステン粒子の『質量により秤量』したメジアン粒径について、定義や測定方法の記載はない」、「以上によれば、本件明細書の記載を考慮し、出願当時の技術常識を基礎としても、本件発明の『炭化タングステンを含んでなる表面を有する『粉砕工具』の『工具表面』に『含有』される炭化タングステン粒子の『質量により秤量』したメジアン粒径の意義を理解することはできず、本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを得ないから、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、明確性要件を充足しないというべきである」、「原告は『炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径』の定義は、沈降法により測定されるストークス径について、質量を基準に粒子径を表した質量分布におけるメジアン粒径ということで、一義的に明確であり、ストークス径はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する」、「しかし、前記・・・・のとおり、本件明細書には『炭化タングステンを含んでなる表面を有する『粉砕工具』の『工具表面』の炭化タングステン粒子が、コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方、炭化タングステン粒子が工具表面から分離可能であることの記載や示唆はない。また、ストークスの式によりストークス径を算出するためには、ストークスの式に沈降距離h、沈降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ、本件明細書を見ても、ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載はない。そうすると、粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があることが周知であり、沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られるとしても『粉砕工具』の『工具表面』に『含有』される炭化タングステン粒子が、コバルトである結合剤と焼結により一体化している以上、沈降法により炭化タングステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから、本件発明の『炭化タングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径』が、沈降法に基づいて得られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない」、「原告は、焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か、変化するとしてどの程度変化するかは、焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも十分に予測が可能であり、その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径を調整し、必要に応じて焼結条件を調整すればよく、また、焼結の前後それぞれの炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し、その変化の有無や程度を確認することで、ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能であるから、工具表面に存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない、また、本件発明におけるメジアン粒径は『1.3μm以上ないし0.5μm以下という広い範囲を規定するものであるから、焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影響を及ぼさないと考えられる旨主張する。しかし、本件明細書には、焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測して炭化タングステン粒子の粒径を調整することや、焼結の前後それぞれの炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し、その変化の有無や程度を確認してストークス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから、本件発明の炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径が、かかる予測や調整等を行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径であるとは解されない。また、本件発明におけるメジアン粒径が、広い範囲を規定するものであるとしても、焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき根拠はないから、上記の判断を左右するものではない」、原告は、焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要があるとしても、コバルトの融点は1495℃、炭化タングステンの融点は2870℃であるから、バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し、炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。しかし、本件明細書には、一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子とを加熱し、バインダーであるコバルトを除去し、炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することについては、記載も示唆もないから、本件発明の炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径が、コバルトを除去して取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジアン粒径であるとは解されない。仮に、上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することができたとしても、一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子とを加熱し、バインダーであるコバルトを除去し、炭化タングステン粒子を取り出すという過程において、炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないという根拠はないから、そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストークス径が、そのまま、コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングステン粒子のストークス径であるということもできない」、以上によれば、原告の主張は、いずれも採用できない」と述べている。

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