大阪地裁(令和2年5月28日)“クランプ装置事件”は、「特許法102条2項に基づく推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができる。もっとも、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることをもって直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である」、「被告らは、推定覆滅の事情として、本件発明は流量調整弁の構成が重要な発明であることなどを指摘し、被告製品群1〜3については『侵害品の部分のみに実施されている場合』と同様に推定覆滅の事情として考慮すべきこと、コントロールバルブの被告製品中における位置付け及び本件発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮すれば、相当割合の推定覆滅が認められるべきであるなどと主張する」、「本件発明における特徴的な部品等である流量調整弁がクランプ装置の一部を構成するにすぎないことなどの被告ら指摘に係る事情は、被告製品群1〜3においては、むしろその存在こそが強い顧客誘引力として作用しているものと考えるべきであって、これをもって特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情とすることは必ずしもできず、覆滅の事情とされるとしても、その程度は限定的というべきである」、「被告らは、推定覆滅の事情として、被告製品が被告特許1〜3の実施品であり、その実施がいずれも被告製品の売上に貢献していることも主張する」、「被告製品群1〜3が被告特許1〜3に係る各発明の実施品(ないしこれに類する機能を有する製品)であったとしても、その売上に対する被告特許1〜3の貢献の程度は必ずしも高くないと見るのがむしろ相当である」、「このほか、証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告らとは、被告製品群1〜3を含むクランプについて国内の市場シェアをほぼ独占し、一方の利益が上がれば他方の利益がその分減少するという関係にあると認められることから、市場はほぼ同一である上、原告、被告ら以外の他の競合品を考慮する余地は乏しい。また、被告らによる特に顕著な営業努力に関する主張立証はなく、被告特許1〜3に係る発明の実施の点を除き、侵害品である被告製品群1〜3の性能に関する主張立証もない。これらの事情を総合的に考慮すると、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情として、被告製品群1〜3には本件発明の実施による機能以外の機能があることに鑑み、被告製品群1〜3による被告らの利益の2割の限度で、特許法102条2項に基づく推定の覆滅を認めるのが相当である」と述べている。 |