知財高裁(令和2年)“ドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物事件前訴判決(サイト注:動機付けの存在を認めて進歩性を否定した前訴判決→予測できない顕著な効果の存在を認めて進歩性を肯定した本件審決→予測できない顕著な効果の存在を否定して進歩性を否定した差戻前判決→差戻前判決を破棄した上告審判決、という経緯を辿っている)は、本件各発明について、その発明の構成に至る動機付けがあると判断しているところ、発明の構成に至る動機付けがある場合であっても、優先日当時、当該発明の効果が、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである場合には、当該発明は、当業者が容易に発明をすることができたとは認められないから、前訴判決は、このような予測できない顕著な効果があるかどうかまで判断したものではなく、この点には、前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法3条1項)は及ばないものと解される。そこで、本件各発明がこのような予測できない顕著な効果を有するかどうかについて判断する」、本件発明1における本件化合物の効果として、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率は、0μM〜2000μMの間で濃度依存的に上昇し、最大値2.6%となっており、この濃度の間では、クロモリンナトリウムやネドクロミルナトリウムと異なり、阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると、阻害率がかえって低下するという現象が生じていないことが認められる」、「本件優先日当時、本件化合物について、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出阻害率が0μM〜2000μMまでの濃度範囲において濃度依存的に上昇し、最大で2.6%となり、この濃度の間では、阻害率が最大値に達した用量(濃度)より高用量(濃度)にすると、阻害率がかえって低下するという現象が生じないことが明らかであったことを認めることができる証拠はない」、「ケトチフェンは、ヒトの場合においては、モルモットの実験結果・・・・とは異なり、ヒト結膜肥満細胞安定化剤としての用途を備えており、ヒスタミン遊離抑制率は、誘発5分後で7.5%、誘発0分後で7.2%であることが認められる。もっとも、本件優先日当時、ケトチフェンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制率について0μM〜2000μMの間で濃度依存的な効果を有するのか否かが明らかであったと認めることができる証拠はない」、「本件化合物やケトチフェンと同様に三環式骨格を有する抗アレルギー剤には、アンレキサクノス・・・・、ネドクロミルナトリウムが存在する・・・・ところ、アンレキサクノスは有意なモルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果を有している・・・・が、本件化合物は有意な効果を示さないこと・・・・、ネドクロミルナトリウムは、ヒト結膜肥満細胞を培養した細胞集団に対する実験においてヒトの結膜肥満細胞をほとんど安定化しない・・・・が、本件化合物は同実験においてヒトの結膜肥満細胞に対して有意の安定化作用を有することからすると、三環式化合物という程度の共通性では、ヒト結膜肥満細胞に対する安定化効果につき、当業者が同種同程度の薬効を期待する根拠とはならない」、したがって、・・・・当業者が、ケトチフェンの効果から、本件化合物のヒト結膜肥満細胞に対する効果について、前記・・・のような効果を有することを予測することができたということはできない」、本件発明1の効果は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから、当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない」、「本件発明2は、本件発明1について、本件化合物のZ体(シス異性体)に限定するとともに『ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を6.7%以上阻害する』という発明特定事項を付加したものであり、本件発明1と同じ効果を奏するものである」、「当業者がケトチフェンの効果・・・・に基づいて本件化合物の効果を予測することができたと認められないことは、前記・・・・のとおりである。したがって、本件発明2は、当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない」と述べている。

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