知財高裁(令和2年6月29日)“ロール製品パッケージ事件”は、「『フィルムが破れにくい』という課題を、フィルム及びロール製品を本件発明の数値限定の範囲のものとすることによって解決したことは、本件発明にとって欠かすことができないものであり、これについて発明の詳細な説明の記載及び技術常識により当業者が解決することできると認識できる範囲のものと認められないときは、サポート要件に反するということができる」、「本件明細書・・・・には、『フィルムの強さ』について、『トイレットロールを包装後のパッケージにおいて、フィルムの破れの有無を評価した。』と記載されていることからすると、『フィルムの強さ』とは、包装袋のフィルムの破れの有無によって評価されたものと理解される。また、前記・・・・のとおり、本件発明の課題及び効果の1つは、ロール製品パッケージを持ち運ぶ際に、包装袋のフィルムが破れにくいという点にあることからすると、『フィルムの破れ』とは、ロール製品パッケージの運搬時の破れを意味するものと認められる」、「本件発明がガゼット包装によって包装したロール製品を含むことは、【請求項1】に明示されているところ、・・・・ガゼット包装とは、ロール製品を収納した包装袋の上部の余剰部分を折り畳んで持手部を形成した包装形態であると認められる。そして、ガゼット包装で包装したロール製品パッケージ(以下『ガゼット包装パッケージ』という。)を消費者が運搬する場合は、同商品の質量分の負荷を主に受ける部分は、持手部に設けられた指掛け用の穴のうち、消費者が指を引っ掛けている部分であるから、同部分は、運搬時に破れる可能性が高いと推認できる。このことに、ガゼット包装パッケージの持手部とロール製品を包んでいる部分は一体の部材であって、上記持手部は包装袋の一部ともいいうるものであり、本件発明が『フィルムが破れにくい』との課題を解決するための手段として設定したフィルムの坪量等についての数値はガゼット包装パッケージの持手部のフィルムにも当てはまることを総合すると、ガゼット包装パッケージの場合のフィルムの破れにくさを評価するに当たっては、持手部の指掛け用の穴の指が引っ掛かる部分の破れにくさについても検討する必要があるというべきである」、「ガセット包装パッケージにおいて、上記の指掛け用の穴の形状や数、同部分を構成するフィルムの枚数等については、種々のものが考えられ、また、消費者が指掛け用の穴に指を引っ掛ける方法にも種々のものが考えられる(例えば、2つの穴が設けられている場合には、両方の穴に2本ずつ指を引っ掛ける方法や1つの穴だけに1本の指を引っ掛ける方法等種々のものが考えられる。)ところであり、これらの各種の形態、構成や、消費者が指掛け用の穴に指を引っ掛ける方法に応じて、消費者が上記持手部の指掛け用の穴に指を引っ掛けて同商品を持った場合に、同穴の上部の指を引っ掛ける部分に同商品の質量の負荷がかかる程度や同部分の破れにくさは異なってくるものと考えられる。一方、・・・・本件官能評価は、持手部の両端部が包装袋の対向する側面に接合されているキャラメル包装パッケージである本件ロール製品パッケージの持手部を持って運搬した場合の包装袋のフィルムの破れの有無及び程度を評価したものであるが、本件ロール製品パッケージの持手部を持って運搬した場合に、包装袋において同商品の質量分の負荷を受ける部分は、持手部が包装袋の側面に接合された部分及びその周辺部分(以下『本件接合部分』という。)であり、本件官能評価においても主に本件接合部分の破れの有無及び程度が評価されたと推認されるところ、本件接合部分が受ける負荷の程度や本件接合部分の破れにくさは、本件接合部分の面積や接合の強さ等にも影響されるものと考えられる。このように、ガゼット包装パッケージの指掛け用の穴に指を引っ掛けた部分及び本件ロール製品パッケージの本件接合部分とも、その破れにくさは、種々の条件に影響を受けること、本件官能評価の内容については、本件ロール製品パッケージの持手部を持って運搬した際の本件接合部分の破れの有無及び程度を評価したものであることは分かるが、それ以外の条件については明らかではないことからすると、本件ロール製品パッケージの本件接合部分の破れにくさのみを評価した本件官能評価の結果から、ガゼット包装パッケージを運搬した場合に、指掛け用の穴の指を引っ掛ける部分も破れにくいと認められるとはいえないというべきである」、「原告は、本件発明は、特異な条件を含めてあらゆる条件下で常に破れないことを解決課題としているわけではないと主張するが、・・・・上記判断は、一般的に行われている条件に基づいて判断しているのであって、特異な条件を想定して判断しているものではない」、「以上より、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明に係るロール製品パッケージを運搬した場合に『フィルムが破れにくい』という本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないというべきである。また、本件発明1が、上記課題を解決できるとする技術常識が存在するとも認められないから、本件発明1は、当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。したがって、本件発明1は、サポート要件に適合しないというべきである」と述べている。 |