知財高裁(令和2年)“樹脂組成物事件甲1に記載された発明は、・・・・フレキシブルデバイス基板用のポリイミド前駆体組成物等に関するものであり、キャリア基板上に塗布、乾燥、成膜し、次いで、好ましくは加熱等の手段により、脱水閉環させて、固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程、その上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む、フレキシブルデバイスの製造方法に用いられるものである・・・・。甲1において、フレキシブルデバイス基板は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池の受光デバイスであるフレキシブルデバイスに用いるものが想定されている・・・・から、その回路の形成には高い精度が求められ、キャリア基板上に形成されたポリイミド樹脂膜の上に回路を形成する工程を行うために、ポリイミド樹脂膜がキャリア基板に十分な密着性を有することが必要であると理解でき、そのためには、キャリア基板に塗布したポリイミド前駆体組成物に高い接着性が求められることは明らかである。そして、甲1には『さらに、本発明のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物には、被塗布体との接着性向上のため、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤を添加することができる。・・・・このときの使用量は、ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して、0.1質量%以上、3質量%以下が好ましい・・・・と記載されている」、「そうすると、耐熱性及び機械特性を有しているポリイミド樹脂膜がキャリア基板に十分な密着性を付与するために、甲1に記載されたこれらのカップリング剤を、その好ましい使用量として記載された、ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して0.1質量%以上3質量%以下の範囲内の量で添加することに対する動機付けがある。また、本件発明1記載のアルコキシシラン化合物は、甲1において、シランカップリング剤として挙げられたものを含んでおり、十分な密着性と共に、これと相互に関連し、少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性である剥離性を十分に得させるために、これらのシランカップリング剤の添加量の決定に、多少の試行錯誤を要するとしても、甲1に記載された0.1質量%以上3質量%以下の範囲から、0.2〜2重量%の添加量を見いだすことは当業者が容易になし得たことであるといえる」、「原告は、添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)ことは技術常識であるから、当業者は、添加物の一種であるシランカップリング剤がポリイミド樹脂膜の靭性を低下させるものと推論するので、当業者が甲1・・・・に記載されたシランカップリング剤に着目することはないと主張する」、「原告が主張する、添加剤がポリイミドの熱的、機械的特性に影響する(低下させる)との技術常識の存在は認められない。その他、当業者が、シランカップリング剤がポリイミド樹脂膜の靭性を低下させるものと推論する根拠となるような技術常識の存在を認めることができる証拠はないから、当業者が、甲1・・・・に記載されたシランカップリング剤に着目することがないということはできない」、「以上より、相違点1は、甲1の記載から、当業者が容易に想到し得たものと認められる」と述べている。

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