東京地裁(令和2年7月22日)“ウイルス事件”は、「本件治験の対象とされているT−VECは、・・・・外国の医薬品規制当局の製造承認を受け、我が国でブリッジング試験を行っている先発医薬品(サイト注:原告特許権者による特許発明の実施品は治験中であり未だ承認を受けていない)であるが、以下のとおり、本件治験についても、平成11年最判(サイト注:後発医薬品の事案)の趣旨が妥当するものと解される」、「本件治験は、外国の医薬品規制当局の製造承認を受け、我が国でブリッジング試験を行うものであるが、・・・・ブリッジング試験とは、外国臨床データを新地域の住民集団に外挿するために新地域で実施される臨床試験であり、新地域における有効性、安全性及び用法・用量に関する臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われるものであって、同試験に当たり、一定の条件に適合する外国臨床データは医薬品の製造等承認申請書に添付される資料として受け入れられるものの、日本人における当該医薬品の有効性及び安全性の評価を行うため、原則として、国内で実施された臨床試験成績に関する資料を併せて提出することが必要であると認められる」、「そうすると、先発医薬品等に当たるT−VECについても、後発医薬品と同様、その製造販売の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要し、その試験のためには、本件発明の技術的範囲に属する医薬品等を生産し、使用する必要があるということができる」、「平成11年最判は、特許権存続期間中に、特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品の生産等を行えないとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となるが、この結果は、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにするという特許制度の根幹に反するとしている。T−VECについても、・・・・その製造販売の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要するので、本件特許権の存続期間中に、本件発明の技術的範囲に属する医薬品の生産等を行えないとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、本件発明を自由に利用し得ない結果となるが、この結果が特許制度の根幹に反するものであることは、平成11年最判の判示するとおりである」、「以上のとおり、平成11年最判の趣旨は本件治験についても妥当するので、本件治験は、特許法69条1項の『試験又は研究のためにする特許発明の実施』に当たる」、「原告は、バイオ医薬品は特許出願から製品化までに長期間を要し、中でも、遺伝子組換えがん治療ウイルスは製造販売承認を得て製品化される時期が当該特許権の存続期間終了間近とならざるを得ないので、発明者の開発と並行して他者が当該特許発明の類似品の開発(治験)を行うことができるとすると、革新的なバイオ医薬品の特許権者の利益が不合理なまでに毀損されると主張する。しかし、・・・・再生医療等製品については、条件及び期限付承認の制度が設けられていることを除き、医薬品と概ね同様の規律が定められており、再生医療等製品についても優先審査が適用される上、先駆け審査指定制度の対象にもなり得ることを考えると、再生医療等製品の審査が長期化することが制度上予定されているということはできない。また、第三者が特許権の存続期間内に発明の技術的範囲に属する再生医療等製品の治験を行うことができないとすると、当該第三者は、特許権の存続期間が終了した後に治験を開始しなければならないこととなり、製造販売の承認を得るまで長期にわたり本件発明を自由に利用し得ない結果となるが、これは、平成11年最判も判示するとおり、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるという特許制度の根幹に反することとなる。特許法は、特許発明の種類や技術的価値の大小等にかかわらず、一律に特許権存続期間を出願の日から20年と定めているのであり(特許法67条1項)、再生医療等製品の承認審査に事実上長期間を要することがあるとしても、特許権の存続期間内にその特許発明に属する再生医療等製品の治験を行うことを禁止することにより、当該特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果をもたらすような解釈を採用することはできない」と述べている。 |