東京地裁(令和2年)“情報記憶装置事件被告らは、被告電子部品(設計変更後)の本件設計変更部分は、本件発明1−1D等の『穴部』に当たらないので、被告電子部品(設計変更後)は、構成要件1−1D等を充足しないと主張する。しかし『穴』とは、一般に『くぼんだ所』又は『向こうまで突き抜けた所』を意味するところ・・・・、構成要件1−1Dの『穴部』は『情報記憶装置』の『基板』上に形成されたものであり、『画像形成装置本体に設置された突合部に係合する』ものであることからすると、基板上に設けられた『向こうまで突き抜け』ることが可能な空間であり、上記突合部に係合するものであれば足り、必ずしも縁部がすべて閉じていることを要しないというべきである。なお、本件明細書等1の実施例5・・・・に示された穴部は、その縁部が閉じているが、同明細書等には『穴部』の形状を特定又は限定する旨の記載は存在しないことに照らすと『穴部』の形状が実施例に示された形状に限定されると解すべき理由はないものというべきである」、「被告らは、原告が本件特許権1の出願経過において、請求項の文言について『穴部又は切欠部』との語から『切欠部』を削除する手続補正をしたこと・・・・を根拠にして、本件設計変更部分は『切欠部』であって『穴部』には当たらないと主張する。しかし『切欠』とは『部材接合のため切り取った部分』を意味するところ・・・・、本件特許1の出願経過における拒絶理由通知書・・・・の引用文献である乙・・・・において、切欠き2は弾性導電ピン9の外周面に嵌合するものであり、同様に拒絶理由通知で引用された乙・・・・においても、切欠部に相当する凹部0a、0bは凸部1a、1bに嵌合するものであると認められる。また、本件明細書等1・・・・には『基板5bには、位置決め用の切欠部5b1・・・・が鉛直方向の両端にそれぞれ形成されている。この位置決め用の切欠部5b1は・・・・突起部としての位置決めピン3e3・・・・に嵌合し』と記載され、同明細書等において『切欠部』という語は他の部材と嵌合するものという意味で用いられている。以上によれば、上記手続補正により削除された文言である『切欠部』とは、当該部分が他の部材や部品と嵌合するものをいい、かかる理解は、本件明細書における『切欠部』の意義とも整合するものというべきである」、「上記の理解を前提として、被告電子部品(設計変更後)をみるに、同部品は、設計変更前の被告電子部品の穴部の上側の基板を切り取り、その縁部の一部が欠けるに至ったものであるが、設計変更の前後を通じて、従前の穴部に相当する部分に画像形成装置(プリンタ)の突起部が嵌合するという機能には変更はなく、基板を切り取った部分には特別の技術的意義はなく、プリンタの突起部に嵌合する機能を有しないものと認められる。そうすると、被告電子部品(設計変更後)のうち、設計変更前の同部品の穴部に相当する部分と設計変更により切り取った部分を合わせた部分は、構成要件1−1D、1−1F1の『穴部』に該当するので、同部品は、本件発明1−1の技術的範囲に属する」と述べている。

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