知財高裁(令和2年)“船舶事件出願当初明細書に記載された発明の内容は、・・・・要するに、浸水容積が過大となることを防止するために、隔壁を挟んだ2つの部屋に、浸水防止部屋を所定の態様で設けるというものである。ここで、出願当初明細書には、浸水防止部屋を設ける部屋の種類を特に限定する記載はなく、その効果を奏する部屋に設ければよいと解される。もっとも『損傷時の浸水容積が大きな区画(例えば、機関室、補機室、軸室など)が損傷した際・・・・浸水容積が過大となり』・・・・との記載によれば、本件発明の課題である、浸水容積が過大になってしまうという区画の例として『機関室』、『補機室』及び『軸室』があげられているから、これらに浸水防止部屋を設けることが基本的に想定されているといえる。そして、本件明細書中の『船舶の国際規則』・・・・が示すと考えられるSOLAS条約・・・・並びに日本工業規格・・・・及び鋼船規則・・・・によれば『機関区域』の大半は『機関室』、『軸室』又は『補機室』であるから、浸水防止部屋を設ける場所を『機関区域』とすることは自明であるといえ、かかる補正は、当業者が、本件明細書に記載された事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものではないというべきである」、「これに対し、原告は、@機関区域とは、機関室及び軸室に対して極めて広い領域を指し、減揺装置が設けられた部屋や、発電機室などの区画が、機関区域の大きな部分を占めることがある、A『機関区域』には、通風機や空気調和機械を収容する場所のように、比較的狭い部屋も含まれるから、本来の目的である2つの広い部屋の浸水を防止するという観点に対して新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。しかし、@について、前記のとおり、出願当初明細書に記載された発明は、浸水防止部屋を設ける部屋を特に限定していないのであり、減揺装置が設けられた部屋や、発電機室などの区画が、浸水区画が大きくなるのであれば、これらに浸水防止部屋を設けることは自明である。Aについて、通風機や空気調和機械を収容する場所は、補機室に当たる。また、本件登録時発明1は『機関区域』のすべての部屋に浸水防止部屋を設けなければならないとするものではないところ、本件登録時発明1において、浸水防止部屋を設ける部屋は『縦通隔壁で区画されていない』ことも満たす必要があるから『機関区域』の部屋の中でも、相応の広さを有する部屋になると考えられる。したがって、比較的狭い部屋が『機関区域』の定義自体には含まれるとしても、そのことは、出願当初明細書に記載された発明の本来の目的に対して、新たな技術的事項を導入することとなるものではない。よって、原告の主張は採用できない」と述べている。

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