知財高裁(令和2年7月2日)“リチウムイオン二次電池用正極事件”は、「主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明に想到することが容易といえるか否かの判断に当たっては、主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆、技術分野の関連性、課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して、主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに、適用を阻害する要因の有無、予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断するのが相当である。そこで、この判断手法に従って、引用発明(サイト注:甲1に開示された発明)の導電助剤のカーボンナノチューブとして甲2実施例1CNT(サイト注:甲2の実施例1に開示されたカーボンナノチューブ)を適用することの容易想到性について検討する」、「甲1及び2のいずれにも、引用発明の導電助剤の単層カーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを使用することの示唆はない」、「引用発明は、リチウムイオン二次電池正極用導電剤を用いたリチウムイオン二次電池の技術分野に属するものである・・・・。一方、甲2に開示された発明は、導電体、電極材料、電池等の技術分野に属するものである・・・・。そうすると、両発明は、導電体、電極材料または電池という限りにおいて、関連する技術分野に属するといえるにとどまる」、「引用発明は、正極に混合する導電剤の量を低減して、リチウムイオン二次電池を大容量化し、かつ、高出力におけるリチウムイオン二次電池容量の劣化を抑制することを課題とする・・・・。一方、甲2に開示された発明は、従来にみられない高純度、高比表面積のカーボンナノチューブ(特に配向した単層カーボンナノチューブ・バルク構造体)を提供することを課題とする・・・・。よって、両発明の課題は共通しない」、「引用発明において、単層カーボンナノチューブは、リチウムイオン二次電池正極用の導電剤として用いられ、ここで、導電剤は、導電性の低い正極活物質に混合することにより電池の容量を大きくすることができるという作用・機能を有する・・・・。一方、甲2に開示された発明の単層カーボンナノチューブは、導電体、電極材料、電池等の用途に用いられるものであるところ・・・・、導電体として使用される際には、配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として、電子部品の縦配線、横配線に代えることにより微細化、安定化を図るという作用・機能を有し・・・・、電極材料として使用される際には、配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体として、リチウム二次電池の電極材料、燃料電池や空気電池等の電極(負極)材料という作用・機能を有するが・・・・、いずれの作用・機能も、導電性の低い正極活物質に混合することにより電池の容量を大きくすることができるという作用・機能には当たらない。よって、両発明の作用・機能が共通しているとはいえない」、「以上のとおり、甲1及び甲2には、引用発明において、導電助剤として用いるカーボンナノチューブとして甲2実施例1CNTを適用することを動機付ける記載又は示唆を見出すことができない」、「主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到することを動機付ける記載又は示唆を見出せない以上、・・・・かかる想到を阻害する事由の有無や、本願発明の効果の顕著性・格別性について検討するまでもなく、その想到が容易であるとした審決の判断には誤りがある」と述べている。 |