東京地裁(令和2年9月17日)“オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法事件”は、「特許法104条は、物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定すると規定する。しかして、本件特許請求の範囲は、『ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類、並びに、アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む、オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法。』というものであるから、『オルニチン及びエクオールを含有する発酵物』という物を生産する方法について特許がされている場合に当たることは明らかである。そして、被告原料は、・・・・上記『オルニチン及びエクオールを含有する発酵物』と同一の物であるといえる」、「そうすると、『オルニチン及びエクオールを含有する発酵物』が本件特許の特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、被告原料は、本件発明の方法により生産されたものと推定されることとなる。この点、被告原料が生産方法の推定を受ける本件発明に関し、『本件特許の特許出願』日とは具体的にはいつのことを指すかについて検討する。本件特許の特許出願日は、2017年(平成29年)6月28日であるが、本件特許は分割出願を経ており、優先権も主張されているから・・・・、上記にいう『本件特許の特許出願』日は、優先日である2007年(平成19年)6月13日とみることが考えられる。しかし、本件発明の方法に係る発酵原料は、『ダイゼイン配糖体、 ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類』であって、本件明細書においても、様々なダイゼイン類が開示されている・・・・のに対し、優先権基礎出願の明細書・・・・を精査しても、これらに開示されている発酵原料は『大豆胚軸』のみであって、『大豆胚軸』以外のダイゼイン類は開示されていない。そうすると、本件発明のうち、発酵原料が大豆胚軸である発明については、上記『本件特許の特許出願』日は、優先日である2007年(平成19年)6月13日となる一方、発酵原料が大豆胚軸以外のダイゼイン類である発明については、上記『本件特許の特許出願』 日は、親出願日である2008年(平成20年)6月13日となると解するのが相当である。そして、被告方法は、・・・・発酵原料として大豆胚軸以外のダイゼイン類を用いるものである」、「以上によれば、このような被告方法が生産方法の推定を受ける本件発明に関し、上記『本件特許の特許出願』日は、優先日である2007年(平成19年)6月13日ではなく、親出願日である2008年(平成20年)6月13日であるというべきところ、・・・・上記親出願日の時点において、『オルニチン及びエクオールを含有する発酵物』は日本国内において公然知られた物であると認められるから、被告原料は、本件発明の方法により生産されたものとは推定されないと言わなければならない」、「原告は、優先権基礎出願の明細書・・・・には、発酵原料として『ダイゼイン類』の場合が記載されているから・・・・、被告方法が生産方法の推定を受ける基準日は、本件特許の優先日(平成19年6月13日)となる旨主張する。しかし、原告が指摘する上記記載を精査しても、エクオール産生微生物の能力についての記載・・・・、発酵原料となる大豆胚軸への任意添加物についての記載・・・・、大豆胚軸にダイゼイン類が多く含まれている旨の記載・・・・などであるにすぎず、いずれの記載についても、当業者において、大豆胚軸以外のダイゼイン類も発酵原料として記載されていると理解できるものではないというべきである。そして、それ以外の記載をみても、上記優先権基礎出願の明細書において、大豆胚軸以外のダイゼイン類も発酵原料として記載されていると理解できるような記載は見当たらない。したがって、原告の上記主張は、採用することができない」と述べている。 |