東京地裁(令和3年)“コンクリート造基礎の支持構造事件本件明細書に開示された本件発明の作用効果のうち、剛接合によることなく、コンクリート造基礎を場所打ちコンクリート杭に載置することにより支持すること(サイト注:構成要件A)で、水平力が作用した場合であっても、両者に過剰な断面力が発生することを防止できるため、設計の合理性及び施工の容易性が担保されるという点については、本件特許の出願時より前の技術によって奏することが可能であったものである。そうすると、上記の作用効果は、本件発明において新たに見出されたものではないから、本件発明の顧客吸引力を示すものとはいえない。他方で、・・・・構成要件Bに係る、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度をコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きくするという構成は、当該構成を採用していない場合に比べて杭頭部の損傷等が生じる可能性を低くするという作用効果を奏するものであり、この点で、本件発明は従来技術との比較で一定の技術的意義を有するものといえる。ただし、・・・・被告各構造物における被告各構造は、コンクリート造基礎を場所打ちコンクリート杭に載置することにより支持するという構成を採り、構成要件Aを充足するものではあるが、構成要件Bに係る構成については、これを採用しないものが存在しており、本件全証拠によっても、コンクリート造基礎を場所打ちコンクリート杭に載置する支持構造を実現するために、構成要件Bに係る構成を採ることが必須であったと認めることはできない。また、被告各構造は、いずれも被告におけるスマートパイルヘッド工法を採用したものであるところ、同工法に係るホームページ上での紹介においては『さらに、杭上面から鋼管上面までの間に別途高強度コンクリートを打設することで杭頭接合部の耐力及び変形性能の向上を図ります』・・・『さらに杭頭接合部には杭よりも強度が高いコンクリートを打設することで、杭頭接合部の曲げ変形性能を向上させるとともに支圧破壊を防止します・・・・との記載がある。これらは、本件発明の作用効果と共通する杭頭部の損傷防止の作用効果に関する記載ではあるものの、直接的には杭軸部と比較して杭頭部に高強度のコンクリートを打設することを述べるものであって、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度をコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きくする構成を採ることによる作用効果を説明するものではない。その他、被告がスマートパイルヘッド工法の紹介に当たって、当該構成による作用効果を明示的に説明していたことを認める証拠はない。以上の点を考慮すれば、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭について、本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響はある程度限定的であったというべきであり、この点は、102条2項による損害額の推定を一部覆滅すべき事情として考慮すべきである」、「被告は、被告による利益獲得は、主に、被告の技術力、信用、実績及び知名度によるものであり、本件発明はそれに寄与していないと主張する。しかしながら、・・・・原告と被告は、共に日本を代表する総合建設会社であると認められ、他方、本件実施に係る各構造物が建設された当時において、技術力、信用、実績及び知名度等の点で顧客吸引力に特段の差異があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、上記の点は、特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情とは認められない」、「被告は、本件実施に係る各構造物では、スマートパイルヘッド工法が採用されており、本件特許とは異なる、少なくとも4件の特許に係る発明が実施されており、さらに、スマートパイルヘッド工法以外にも、被告が開発した、品質向上、工期短縮、コスト低減、安全性向上、広い空間の実現等に資する画期的な工法が用いられており、それぞれの工法について被告は様々な特許を取得しているといった点を、推定覆滅事由として主張する。しかしながら、被告が主張するいずれの特許発明についても、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭又は本件実施に係る各構造物にこれらが実施されていることについて、具体的な主張立証はない。また、スマートパイルヘッド工法、被告構造物3で採用されているとするナックルパイル工法以外の工法については、被告の主張を前提としても、基礎を支持する杭に関するものではないから、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭の利益に寄与しているとは直ちにいい難い。したがって、上記の点は、特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情とは認められない」、「以上のとおり、本件発明の損害に対する寄与の程度についての被告の各主張を検討したところ、・・・・本件実施に係る場所打ちコンクリート杭について、本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響は一定の限定があり、この点を特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきであり、その覆滅割合は3割と認めるのが相当である」と述べている。

特許法の世界|判例集