東京地裁(令和3年10月29日)“グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材事件”は、「原告は、被告ら、日本黒鉛ら(サイト注:日本黒鉛工業と日本黒鉛商事)及び中越黒鉛の取引の相手方は秘密保持義務を負っていたから、本件特許出願前に本件各発明が公然と実施されたとはいえないと主張する。しかし、証人Z(サイト注:日本黒鉛工業の従業者)は、日本黒鉛工業が黒鉛製品を販売するに当たり、購入者に対して当該製品の分析をしてはならないとか、分析した結果を第三者に口外してならないなどの条件を付したことはないと証言するところ、この証言内容に反する具体的な事情は見当たらない。また、被告ら、日本黒鉛ら及び中越黒鉛が、その全ての取引先との間で、黒鉛製品を分析してはならないことや分析結果を第三者に口外してはならないことを合意していたことをうかがわせる事情はない。取引基本契約書(サイト注:原告と訴外の契約と思われる)・・・・には『甲および乙は、本契約および個別契約の履行により知り得た相手方の技術情報および営業上の秘密情報(目的物の評価・検討中に知り得た秘密情報を含む)を、本契約の有効期間中および本契約終了後3年間、秘密に保持し、相手方の書面による承諾を得ることなく第三者に開示または漏洩せず、また本契約および個別契約の履行の目的以外に使用しないものとする。』・・・・との記載が、機密保持契約書(サイト注:原告と日本黒鉛工業の契約)・・・・には『受領者は、開示者の書面による承諾を事前に得ることなく、機密情報を第三者に開示または漏洩してはならない。』・・・・との記載が、日本黒鉛商事が当事者となった取引基本契約書・・・・には『甲および乙は、相互に取引関係を通じて知り得た相手方の業務上の機密を、相手方の書面による承諾を得ないで第三者に開示もしくは漏洩してはならない。』・・・・との記載が、それぞれ存することが認められる(サイト注:これらの契約書は黒鉛製品の企業間の取引においては秘密保持契約を締結することが通常であることを証明するために原告が提出した)。しかし、『相手方の技術情報および営業上の秘密情報(目的物の評価・検討中に知り得た秘密情報を含む)』、『機密情報』及び『相手方の業務上の機密』に、購入した製品のRate(3R)(サイト注:本件各発明の構成要件に含まれる数値であり、積分強度から算出される)が含まれるかは明らかではないし、黒鉛製品をX線回折法による測定により得られた回折プロファイル、さらにはこれを解析して得た積分強度が、秘密として管理されてきたことや有用な情報であることをうかがわせる事情は見当たらない。したがって、本件特許出願当時、製造販売されていた被告製品A、被告製品B1及び2、日本黒鉛各製品並びに中越黒鉛各製品を分析することについて契約上の妨げがあったとはいえないから、原告の上記主張は採用することができない」と述べている。 |