東京地裁(令和3年10月29日)“電気工事作業に使用する作業用手袋事件”は、「乙1手袋を含む乙1製品・・・・は、・・・・少なくとも660双が東北電力に販売されて、同社の各支店の作業員がこれを使用したと推認されることに照らすと、被告ヨツギは、本件特許の出願前である平成16年(サイト注:2004年)3月、乙1手袋を含む乙1製品を販売したことによって、乙1発明を公然実施していたものというべきである(サイト注:乙1発明は本件発明の進歩性を否定する引用例として主張されている)」、「原告は、乙1手袋の袖口の『製造年月04年3月』の『0』の数字の文字幅が狭くなっていることを指摘し、当該『0』は、もともとは『1』であり、これが事後に書き換えられた可能性があると主張する。確かに、上記の『0』の数字には、若干の歪みや左右に濃淡の差があるが、これを仔細に観察しても、『1』を『0』に書き換えたとは認められない」、「原告は、感電を防止する保護具としての手袋の耐用年数は5年であり、 乙1手袋が平成16年3月23日に販売されたとすれば、耐用期間を大きく超過した時期に検査が行われたことになり、不自然であると主張する。しかし、原告が乙1製品の耐用期間の根拠とする証拠・・・・は、電機絶縁手袋のメーカーが同社の目安として絶縁手袋の耐久年数を5年としているというにすぎず、これをもって乙1製品の耐用期間や経年劣化の期間であると認めることはできない。また、原告が指摘する労働安全衛生規則351条は、絶縁用保護具を使用している間、定期的に検査を行うことを義務付けているものの(同条1項)、当該保護具が使用されていない場合は、その使用を再び開始する際にその絶縁性能について自主検査を行なわなければならないと規定している(同条2項)ことからすると、乙1手袋について検査が行われたのが平成23年であるとしても不自然ではなく、また、試験や検査するたびに押印するとは限らないことからすると、乙1手袋上に押印がないとしても、この間、同手袋について検査が行われていなかったということもできない」、「原告は、本件特許の無効審判においては乙1手袋が証拠として提出されていないことを指摘するとともに、乙1手袋が速やかに廃棄されず、たまたま退職した従業員のロッカーに残置されていたという偶然が生じるとは考え難いと主張する。しかし、特許無効審判の不成立審決を受けて、証拠となり得る低圧二層手袋が現存していないか調査したとの事実経過が不自然であるということはできず、また、・・・・乙1製品に出荷数に照らすと、そのうちの1双である乙1手袋が東北電力内に残っている可能性は否定できず、その現況も若干の汚れはあるものの特段の損傷は見られないというものであって、ロッカー内に残置されていたとの保管状況と整合し得るものである」、「原告は、東北電力は、乙1製品の独占的な購入者であり、商慣習上、乙1発明の内容を第三者に開示することはないと主張する。しかし、原告の主張するような商慣習があったことを認めるべき証拠は存在せず、被告ヨツギは、これを東北電力に販売し、その所有権を譲渡しており、東北電力が、その購入した製品の構成について、第三者に開示しないという義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。実際のところ、乙1製品は、東北電力の現場の作業員に使用されていたのであるから、乙1発明の内容は第三者に開示されていたものというべきである」、「原告は、東北電力が、作業員等に対し、乙1製品の分析をし、その知識を第三者に提供することを許容していたとは考え難く、その外観から乙1発明の内容を認識し得ないと主張する。しかし、上記・・・・のとおり、東北電力は乙1製品の構成についてその作業員等に開示しないという義務を負っていたものではなく、また、その構成等は、外部機関に委託するなどし、通常の分析方法から知り得るものであることに照らすと・・・・、乙1発明は不特定多数の者が知り得る状況で実施されていたというべきである」、「したがって、原告の上記各主張はいずれも理由がない」と述べている。 |