知財高裁(令和3年)“無線通信サービス提供システム事件インターネット広告配信の技術分野において、同じ広告を必要以上に見せることにより起きる『バナーバーンアウト(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために、利用者一人一人に対する広告配信の回数をコントロ−ルすることは周知技術であった。乙5発明は、インターネットにおける広告配信という、上記技術と共通する技術分野に属する。そして、乙5発明は『モバイル・ウェブ・クライアントによりウェブにアクセスしているユーザーに対する広告の効力を高めること』・・・・を目的としており、広告の効力を高めるという課題は、上記周知技術の課題と共通する。そのため、乙5発明に、技術分野及び課題が共通する上記周知技術を組み合わせることには動機付けがあるものと認められる。そして、乙5発明において、特定の広告オブジェクトについて各ユーザーに配信する回数を1回に制限するためには、ウェブ・サーバが、受信したモバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置情報が一致したことにより・・・・一度供給した広告オブジェクト・・・・を、その後、上記モバイル・ウェブ・クライアントの位置情報と広告オブジェクト(広告情報)に関連付けられた位置情報が再度一致しても、上記モバイル・ウェブ・クライアントに送信しないようにすればよいことは、明らかである。したがって、乙5発明に、特定の広告を各利用者に配信する回数を1回に制限するという周知技術を適用することができたものと認められる。そうすると、乙5発明に、特定の広告を各利用者に配信する回数を1回に制限するという周知技術を適用し、構成要件E『広告情報管理サーバが、無線通信装置が一旦指定地域の外に出た後再び指定地域内に戻った場合であっても、指定地域内にとどまり続けた場合であっても、同じ広告情報を無線通信装置に送信しないこと』を特徴とする無線通信サービス提供システム・・・・)を容易に想到することができたものと認められる」、「控訴人は、一般的に、広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果があるので、乙5発明は、広告情報が関連付けられた位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し、可能な限り長い時間、繰り返し広告を表示することを目的としており、回数は無制限で広告情報を配信する発明であるとし、広告の配信回数を制限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することには阻害事由があると主張する・・・・。しかしながら、前記・・・・のとおり、インターネット広告配信の技術分野において、本件特許の出願時(平成2年9月5日)には、同じ広告を必要以上に見せることにより起きる『バナーバーンアウト(広告に反応がなくなる状態)を防ぐために、利用者一人一人に対する広告配信の回数をコントロールすることは周知技術であったから、本件特許の出願時において、一般的に、広告は目に触れる回数が多ければ多いほど効果があると認識されていたとは認められない。そして乙5発明は、広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対して広告オブジェクト(広告情報)を配信することにより広告の効果を高めるものであると認めることはできるが・・・・、乙5には、広告オブジェクト(広告情報)が関連付けられた位置情報及び時刻と一致する位置情報及び時刻を有するモバイル・ウェブ・クライアントに対し、可能な限り長い時間、繰り返し広告を表示することが広告の効力を高めることである旨の記載はなく、かえって、広告の繰り返しは、その効果を減ずるという認識を前提とする上記周知技術が存在したことからすると、広告の繰り返しによって、その効力を高めることが乙5発明の唯一の目的であったということはできない。したがって、広告の配信数を制限することにより広告の効果を高めることを乙5発明が排斥するものであったと認めることはできないから、広告の配信回数を制限するという公知技術又は周知技術を乙5発明に適用することに阻害事由があるとは認められず、控訴人の上記主張は、採用することができない」と述べている。

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