知財高裁(令和3年2月9日)“顕微鏡イメージング装置事件”は、「本件発明者らのうちの5名を含む7名は、本件論文を執筆してこれを本件学術誌に投稿し、平成23年9月11日、本件論文が掲載された本件学術誌・・・・が公開された・・・・。本件論文には、引用発明が記載されているが・・・・、本願発明と引用発明とは同一である(争いがない。)。また、原告は、改正前特許法30条4項(サイト注:現3項)の書面を特許庁長官に提出していない」、「本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本件学術誌が、本願の出願日(サイト注:平成23年9月29日)の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから、本願発明には、新規性が認められない」、「原告は、@出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに、論文発表等により発明を公知にしてしまった場合は、錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから、改正前特許法30条2項(サイト注:現1項)の『意に反して』に該当する、A改正前特許法30条2項の『意に反して』とは、権利者が発明を公開した後に、権利者の意に反して出願日が繰り下がり、当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明となってしまった場合も含むとして、本願においては、同項が適用されるべきであると主張する。しかし、本件において、原告は、引用発明が掲載された本件学術誌が公開されたことを認識していたことは明らかである。原告は、当初の出願後に『引用による補充』を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり、また、改正前特許法30条4項に規定する手続を、特許法184条の14に規定する期間内に行うことも可能であったといえる。したがって、本件においては、改正前特許法30条2項の『意に反して』には当たらず、同項は適用されないというべきである。この点について、原告は、出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと主張するが、それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず、上記判断を左右するものではない」と述べている。 |