知財高裁(令和3年3月25日)“止痒剤事件”は、「鎮静と止痒の関係について検討するに、一般的に鎮静剤であると止痒作用を有することが多いなどの知見について記載した文献が、本件優先日当時に存在したとは、本件における証拠上認められない。また、・・・・鎮静剤とは、中枢神経系に一般的な抑制作用を示し、不安、興奮を静めるなどの作用を持つ薬物であると認められるが、同じ鎮静剤といっても、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系など、化学構造、作用部位、作用機序がそれぞれ異なっていて、そのことは、本件優先日当時の当業者に広く知られていたものと認められる。そうすると、仮にある鎮静剤について、止痒作用を有することが明らかになったとしても、それと異なる系統の鎮静剤に止痒作用があると当業者が考えるとは認められないから、そこからして、鎮静と止痒の間に、原告の主張するような一般的な技術的関連性があるとか、課題・作用効果の共通性があると、本件優先日当時の当業者が認識していたとは認められない」、「原告は、この点について、@当業者は、甲1と甲9を組み合わせて化合物Aの止痒剤への用途を確認しようとする動機付けを持つ、A本件発明1は痒みと痛みの両方が生じる虫刺症など疾患に利用可能とされているところ、同じ物質である化合物Aについて、甲1で鎮痛剤などとして利用可能とされているから、技術的関連性や課題・作用効果の共通性があると主張する。しかし、上記@について、・・・・甲9は、『痛み』と『痒み』は、その機序が異なり、それぞれ違うものであるという前提に立って記載されているものであり、当業者が、甲9から『痛み』と『痒み』に関連性があることを想起するとはいえない。上記Aについても、・・・・本件優先日当時、当業者が、鎮静作用と止痒作用との間に、技術的関連性があるとか、課題・作用効果の共通性があると認識していたとは認められないし、オピオイド作動性化合物(サイト注:化合物Aの一種)について、その鎮痛作用と止痒作用との間に、技術的関連性があるとか、課題・作用効果の共通性があると認識していたとは認められない。本件発明1は、痒みと痛みの両方が生じる疾患に利用可能とされていることは、この認定判断を左右するものではない」、「以上からすると、・・・・甲1の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認められない」と述べている。 |