大阪地裁(令和3年5月20日)“硬貨の製造方法事件”は、「特許請求の範囲及び本件訂正明細書の記載によれば、『金型』(構成要件B、C、E及びF)は、プレス金型を意味すると解されるのであって、『金型』は1つに限定されず、プレス金型及びこれを作製するための原金型を区別することなく包摂するものとして『金型』の語が用いられているものと解することはできない」、「原告らは、プレス金型に関する工程と原金型に関する工程は一体不可分の関係にあること、本件各発明は硬貨の製造方法の発明であり、金型という物の発明ではないこと、本件訂正明細書中に金型が1つであるという限定がないこと、金型が1つであることは本件各発明の作用効果に関係がないことなどから、『金型』(構成要件B、C、E及びF)は1つに限定されない旨を主張する。しかし、・・・・本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載は、いずれも、本件各発明である硬貨の製造方法において用いられる『金型』としてはプレス金型のみを念頭に置いたものと理解され、少なくとも、原金型をもとにプレス金型を得る工程を経ることをうかがわせる記載はない。また、硬貨の製造に当たり、硬貨そのものの製造に用いられるプレス金型を得るためには必然的ないし一般的にまずその原金型を得ることを要することその他プレス金型に関する工程と原金型に関する工程が一体不可分の関係にあることが当業者にとって技術常識であることを裏付けるに足りる証拠はない。さらに、仮に、硬貨の製造に当たりプレス金型及び原金型を用いることが必然的ないし一般的であるとした場合、原金型に形成された模様等をプレス金型に転写等する工程が必要となる。本件各発明の作用効果は、『硬貨の地模様に、立体的幾何学模様からなる地模様が得られ、硬貨の輝きを増し、硬貨の装飾価値あるいは遊戯価値を高めること』・・・・であるから、上記転写等の工程を経てもなおこの作用効果を奏することを要するところ、本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載には上記転写等の工程の構成に関するものはなく、また、そのような記載がなくとも、上記転写等の工程につき、その構成を特定しなくても上記作用効果を奏し得るものが行われることが当業者にとって技術常識であることを裏付けるに足りる証拠もない。そうである以上、特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載にかかわらず、当業者の技術常識に基づき、『金型』(構成要件B、C、E及びF)は1つに限定されないと解することはできない。したがって、この点に関する原告らの主張は採用できない」と述べている。 |