大阪地裁(令和3年)“硬貨の製造方法事件本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載によれば、本件各発明の本質的部分については、以下のとおりと認められる。すなわち、従来、硬貨の表面に描かれた模様は、硬貨を製造するプレス機に設置されるプレス金型に予め彫り込まれ、硬貨をプレス及び打ち抜きする際、硬貨の表面に金型の凹凸が反転して表現されていたところ、プレス金型に対して硬貨の表面に浮き出る部分は、平面彫刻機で彫り込んで行われていた。しかし、平面彫刻機のように厚み方向のみ切削する切削工具では、切削した部分及び切削を行わなかった部分は平面仕上げであり、金属の地肌のままの色合いであるため、放電加工機で不規則かつ微細に地金を削り取りいわゆるナシ地仕上げを行ったり、切削した部分を細かく研磨して鏡面仕上げを行ったりし、また、立体彫刻機で人物や動物等立体的な図形を彫り込み、得られた硬貨の表面の凸部に人物等を立体的に表現して、硬貨の装飾効果を高めていた。しかし、これらの方法によっても、図形等の部分を除いた硬貨の地模様に対応する部分は、平面仕上げ、鏡面仕上げ、ナシ地仕上げのいずれかであり変化に乏しく、また、メダル遊戯機で使用される硬貨は、コスト等の兼ね合いがあり、高価な金属の使用が難しく、表面の輝きが鈍いものが多いという課題があった。本件各発明は、こうした課題に対し、硬貨の表面の地模様に立体彫りによる変化を起こし、硬貨の輝きを増し、硬貨の装飾価値等を高めることを目的とするものである。具体的には、本件発明1は、切削深さを任意に変えられる同時三軸制御NCフライス機を、硬貨表面に描かれる人物や動植物等の図形に用いるのではなく、金型の表面に対して一定パターンで切削を繰り返すことにより硬貨の地金部分に立体的な幾何学的模様からなる新たな地模様を描き出し、硬貨の装飾価値を高めるものである。本件発明2は、本件発明1と同様の方法で硬貨の地模様を描き出すことに加え、同じく同時三軸制御NCフライス機により地模様以外の模様に対応する部分をV溝状に切削することで、当該模様部分の表面積の増加等により硬貨の表面の輝きを増加させ、硬貨の装飾価値等を高めるものである。以上を踏まえると、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のうち、少なくとも『金型の厚み方向へ切削可能な』切削工具『を用い、金型に対して一定のパターンで切削深さと、水平面に対する金型の切削角度と、を変えながら金型表面上を移動させ、傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描き、これを金型表面全体に繰り返すことにより繰り返し模様からなる地模様を形成すること』は、従来技術には見られない特有の技術的思想を有する本件各発明の特徴的部分すなわち本質的部分であるといえる。さらに、本件発明2においては、これに加え、上記工具『により硬貨の表面に浮き出る文字、図形等の模様に対応する部分をV溝状に切削すること』も、特徴的部分すなわち本質的部分ということができる」、「本件各発明における『金型(構成要件B、C、E及びF)はプレス金型を意味し、また、被告製造方法の構成については当事者間に争いがあるものの、被告製造方法が原金型に関する工程とプレス金型に関する工程という2つの工程を含むこと、被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製することは、当事者間に争いがない。これを踏まえると、本件各発明においては、プレス金型の厚み方向へ切削可能な切削工具を用い、プレス金型に対して一定のパターンで切削深さと、水平面に対するプレス金型の切削角度と、を変えながらプレス金型表面全体に繰り返すことにより繰り返し模様からなる地模様を形成し、本件発明2においては、これに加えて、上記工具により硬貨の表面に浮き出る地模様以外の模様に対応する部分をV溝上に切削してプレス金型を得るのに対し、被告製造方法においては、被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製し、こうして得られた原金型から(特定されない加工方法(被告方法1)又は放電加工(被告方法2)により)プレス金型を得る点で相違する。そうすると、被告製造方法は、本件各発明の本質的部分を共通に備えているとはいえない。したがって、本件各発明と被告製造方法の相違部分は、本件各発明の本質的部分に当たる」、「これに対し、原告らは、本件各発明の本質的部分は、金型に対して一定のパターンで切削の深さと、水平面に対する金型の切削角度と、を変えながら金型表面上を移動させ、傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描くことと、地模様以外の模様に対応する部分をV溝状に切削することであり、原金型とプレス金型の2つの金型を用いるか否かは本件各発明の本質的部分ではないなどと主張する。しかし、・・・・原金型からプレス金型に対する転写等の工程につき、その構成を特定しなくても、本件各発明の作用効果を奏し得るものが行われることが当業者にとって技術常識であるとは認められないことをも踏まえると、金型につき原金型とプレス金型の2つを用いるか否かは、本件各発明の本質的部分に係る相違部分というべきである。したがって、この点に関する原告らの主張は採用できない」、「以上のとおり、本件各発明と被告製造方法との相違部分は、本件各発明の本質的部分に当たることから、被告製造方法は、均等の第1要件を欠き、本件各発明に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、その技術的範囲に属するものということはできない」と述べている。

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