知財高裁(令和3年5月26日)“マッサージ機事件”は、「本件出願当時、マッサージ機以外の施療器具の分野において、保持部の開口の向きが横のものが存在することは周知であったものと認められる」、「甲9の記載及び開示によれば、甲9記載のマッサージ機においては、使用者が座部に座った状態で、腕保持部24のU字状の凹部25に腕を載置することにより、保持壁部24a、24b内の空気袋の膨張収縮により、腕部がマッサージされることを理解できる。一方で、甲9には、腕保持部24の形状やその開口の向きを変更することについての記載も示唆もない。また、従来の椅子式エアーマッサージ機を改良して、更に足部や腕部の筋肉疲労も取り除き、同時に身体全体の血行促進を促し得るようなマッサージ機を提供するという甲9記載のマッサージ機の・・・・目的の観点からは、腕保持部24の開口の向きを変更する必要性は認められない。そうすると、本件出願当時、マッサージ機以外の施療器具の分野において、保持部の開口の向きが横のものが存在することが周知であったこと・・・・を踏まえても、甲9に接した当業者において、甲9発明の腕保持部24の形状を変更し、その開口の向きを『上』から『横』の構成に変更する動機付けがあったものと認めることはできないから、相違点2に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない」、「これに対し原告は、@甲9発明は、腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するとの課題を解決できるものであれば、保持部のデザインを変更しても問題はないこと、A甲9発明は、あくまでも『一実施形態に係るマッサージ機10』にすぎない・・・・から、上記課題の解決を阻害しないものである限り、デザインの変更は積極的に示唆されているといえること、B保持部のデザインは、空気袋によるマッサージ機に限らず、各種施療器具を設計製造する際に共通して生じるテーマであることからすると、当業者は、保持部のデザインを模索するに際し、各種施療器具に係る保持部の形状を当然に参酌することからすれば、甲9に接した当業者は、甲9発明における保持部のデザインを変更する目的で、甲9発明において、本件出願当時の周知技術(『各種施療器具において、開口の向きが横である保持部』)を適用して、腕保持部の開口の向きを『上』から『横』にすることにより、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。しかしながら、前記・・・・で説示したとおり、甲9には、腕保持部24の形状やその開口の向きを変更することについての記載も示唆もない。のみならず、甲9には、マッサージ機のデザインや美的観点に関する記載はなく、腕保持部24のデザインを変更することについての記載も示唆もないから、甲9に接した当業者において、甲9発明の腕保持部24の形状の開口の向きを『上』から『横』の構成に変更する動機付けがあったものと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は、採用することができない」、「原告は、人体の腕が、上方からも側方からも移動できるという技術的特徴を踏まえ、甲9発明の腕保持部のデザインを横方向に変更することは、当業者において当然に行う創作能力の発揮の帰結であること、甲9発明の保持部のデザインのバリエーションとして開口の向きを横にすることは、当業者が創作に際して当然に行う常套手段でもあることからすると、開口の向きを横とすることは設計事項であるから、当業者は、甲9発明における保持部のデザインを変更する目的で、甲9発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。しかしながら、前記・・・・で説示したとおり、甲9には、腕保持部24の形状やその開口の向きを変更することについての記載も示唆もないのみならず、マッサージ機のデザインや美的観点に関する記載はなく、腕保持部24のデザインを変更することについての記載も示唆もないから、甲9発明の腕保持部24の形状の開口の向きを『上』から『横』の構成に変更する動機付けがあったもの認めることはできない。したがって、原告の上記主張は、その前提において採用することができない」と述べている。 |