知財高裁(令和3年6月28日)“真空洗浄装置事件”は、「原告は、発明の詳細な説明には本件特許発明1の構成要件Gに関し、それに含まれる特定の実施形態のみが開示されているものの、他の実施形態は不明であり、そのため、本件特許発明1に係る特許は特許法36条4項1号の実施可能要件を充足しないと主張する・・・・。しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の実施形態が記載されているから、本件特許発明1は実施可能であると認められる。発明の詳細な説明に、請求項記載の発明のあらゆる実施形態を記載することは不可能であり、そのようなことをしなくても、当業者は、実施例の記載や、その他の明細書の記載、技術常識等を参酌し、適宜条件を調整することにより本件特許発明1を実施することができると認められる・・・・から、原告の上記主張は、採用できない」、「原告は、本件特許の請求項1の記載では、洗浄室と凝縮室との間の容積の関係も規定されていないため、凝縮室の容積が小さく、洗浄室内の溶剤蒸気をわずかに吸い込んだだけで凝縮室内が溶剤蒸気で満杯になり、凝縮が間に合わずに凝縮室の圧力を上昇させ、溶剤蒸気の移動が直ぐに停止する場合もその範囲に含んでおり、それにもかかわらず、どのようにしてワークの乾燥時間を短縮させることができるのかという実施形態も実施可能に開示されていないと主張する・・・・。しかし、・・・・本件特許明細書の記載を把握した当業者であれば、本件特許発明1の真空洗浄装置における、凝縮室の熱容量、溶剤の種類、凝縮室内の温度や圧力等の種々の条件を最適化し、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように本件特許発明1を実施することに過度の試行錯誤は要しないと推認される。原告が主張する例は、そのような最適化が不可能な極端な例であって、そのようなものまで本件特許発明1が含んでいるものとは考えられないから、原告の上記主張は、採用することができない」と述べている。 |