知財高裁(令和3年)“真空洗浄装置事件「原告は発明の詳細な説明には本件特許発明1の構成要件Gに関しそれに含まれる特定の実施形態のみが開示されているものの他の実施形態は不明でありそのため本件特許発明1に係る特許は特許法6条4項1号の実施可能要件を充足しないと主張する・・・・。しかし本件特許明細書の発明の詳細な説明には本件特許発明1の実施形態が記載されているから本件特許発明1は実施可能であると認められる。発明の詳細な説明に請求項記載の発明のあらゆる実施形態を記載することは不可能でありそのようなことをしなくても当業者は実施例の記載やその他の明細書の記載技術常識等を参酌し適宜条件を調整することにより本件特許発明1を実施することができると認められる・・・・から原告の上記主張は採用できない「原告は本件特許の請求項1の記載では洗浄室と凝縮室との間の容積の関係も規定されていないため凝縮室の容積が小さく洗浄室内の溶剤蒸気をわずかに吸い込んだだけで凝縮室内が溶剤蒸気で満杯になり凝縮が間に合わずに凝縮室の圧力を上昇させ溶剤蒸気の移動が直ぐに停止する場合もその範囲に含んでおりそれにもかかわらずどのようにしてワークの乾燥時間を短縮させることができるのかという実施形態も実施可能に開示されていないと主張する・・・・。しかし・・・・本件特許明細書の記載を把握した当業者であれば本件特許発明1の真空洗浄装置における凝縮室の熱容量溶剤の種類凝縮室内の温度や圧力等の種々の条件を最適化しワークの乾燥時間が所望のものとなるように本件特許発明1を実施することに過度の試行錯誤は要しないと推認される。原告が主張する例はそのような最適化が不可能な極端な例であってそのようなものまで本件特許発明1が含んでいるものとは考えられないから原告の上記主張は採用することができない」と述べている。

特許法の世界|判例集