知財高裁(令和3年7月20日)“二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物事件”は、「原告は、・・・・甲1発明は、気泡状の二酸化炭素を発生させて利用する技術分野に関するものであり、当該技術分野において、二酸化炭素発生の持続性を高めるために、媒質に粘性を持たせるという技術(本件周知技術)は周知であって、甲1発明と本件周知技術は、技術分野、課題、作用が共通するから、当業者において、本件周知技術を採用し、相違点1に係る構成を採用する動機付けがあると主張する。しかし、甲1・・・・には、『約42度の湯を入れた洗面器、バケツにバブ片を1〜数個入れ、完全に溶けるまで待つ』と明記されているから、褥瘡治療前に発泡は終了していることになる。そして、・・・・『今回、実験を行った150ppm以下の低濃度炭酸泉では大量の炭酸ガス気泡は発生せず、測定された血流増加作用はガス気泡による物理的作用によるものではなく水中に溶存していた炭酸ガスの経皮吸収による化学的作用によると考えられる。』・・・・との記載があることを参酌すれば、甲1発明において、あえてバブが『完全に溶けるまで待つ』と記載されていることには、バブから十分な量の二酸化炭素が発生し、水中に溶存するのを待つという技術的意義があると解される。そうすると、甲1に接した当業者は、甲1の上記記載から、甲1発明では、バブ片を完全に溶かし、湯に溶存している二酸化炭素を経皮吸収させて血行促進作用を図るものと理解するから、甲1発明に『気泡状の二酸化炭素を持続的に保持する』という課題があると認識するとは認められない」、「原告は、『気泡状の二酸化炭素を持続的に保持する』という課題は自明又は容易に発見できるのであるから、それが甲1発明から認識できるか否かを判断する必要はない旨主張するが、・・・・本件発明が甲1発明から容易に想到できたか否かを考えるに当たっては、あくまで甲1発明に接する当業者が甲1発明からどのような課題を認識できるかを考えることが必要になるのであるから、原告の主張は失当というほかない。したがって、原告主張の文献において、気泡状の二酸化炭素の発生及び保持を持続させるという課題及びこれに対する技術手段(本件周知技術)が記載されているとしても、甲1発明に接する当業者が同課題を認識するとは認められない以上は、甲1発明に本件周知技術を組み合わせる動機がない。また、そもそも本件周知技術自体についても、原告主張の文献を精査しても、甲1発明と共通する技術分野で、増粘剤の粘性によって気泡状の二酸化炭素を保持することに関連するものは見当たらず、上記技術分野で、このような技術手段が周知であるとはいえない」、「以上によれば、甲1発明において、気泡状の二酸化炭素の発生及び保持の持続という課題を当業者が認識することはできず、また、甲1発明と共通する技術分野で、本件周知技術の存在を認めることもできない。そうすると、その他の点について判断するまでもなく、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない」と述べている。 |